ただいまご主人不在です

挿絵が用意してありますがレイアウトの関係上『こちら』のスペースに置いてあります




みなさんこんにちわ、いつも私の仲間も皆さんのお世話になっていると思います。白衣の天使です。
私はご主人様からトリルという名前をいただいて、そう呼ばれていますので、以後お見知りおきを。
……とは言ったものの、ご主人様がレベル60に到達してからは、かぐやさんを連れて歩くのが中心になってしまって、私はアイテムウィンドウの中での待機が多くなって……しかたないですね、そもそも制限レベルの差が30もありますし、私には攻撃型の能力はありませんから。
……でも、私だってご主人様のコトが大好きなんです、例えお役に立てなくてもお傍にいたいというこの想い、どうかわかって……
「はーいすとーっぷ」




びしっ、とトリルの頭にデコピンが飛ぶ。
「きゃん!」
「アンタねぇ、想いがどうだの、なに自分の世界に陶酔してんのよ。 というかあたし達のご主人様は3人共女だし」
ふーやれやれ、と頭痛を押さえるかのように軽く額に手を当てて、ふかーく溜息をつくプチデビル。
自分がつっこむまで一人でスポットライトまで浴びて小芝居をしていたトリルに、かなりの呆れを感じていたらしい。
「うー… いたいですよエミィ〜」
「つっこまれるようなことしてるからよ。 ……というかフリージアにさやも、ご主人様達の懐中電灯勝手に使うな!!」
違う方向の台の上から、それぞれトリルをスポットライトのように懐中電灯で照らしていたフリージアとさやが、それらを抱えて器用に降りてくる。ペットだけに人間より幾分か身体のサイズが小さいせいか、それが妙に重そうに見えてしまう。
「ヨイショっと…  だって、すごく退屈だもん」
「ご主人様もまだ島に来てないし、さやも退屈ー、おでかけしたいー」
「…だからって、キャンプの椅子とか勝手に移動させないでって……」
プチデビル―エミィはお子様二人の行動にさらに深い溜息をつき、二人が抱えている懐中電灯を没収し、二人では手は届かない冷蔵庫の上に飛び上がり、そこに置いた。
「トリル、椅子元の位置に戻すから手伝って」
「はーい」
移動されいていた椅子をそれぞれ1脚ずつ持ち、元の位置であるテーブルのそばに配置する。
この二人も他のペットよりは身長はあるものの、人間と比べるとやはり小さく。やはり見ていて大変そうに思う人は出てくるかもしれない。
「ふー……というか、コレどうやって運んだの」
「あ、運んだの私だから……」
「何から何まであんたが元凶か!!」
「あ、あとでちゃんと元の位置に戻しておけばいいかなって思いましたから……」
「そーいう問題じゃないでしょうがっていうか天使がやっていいことかー!?」
「わ、私だってたまにはちょっと遊びたくなりますよーっ」
それももっともだなと納得してしまった自分に対してか、それとも気まずそうな声と表情をしながらも、ぬけぬけと答えるトリルに対してかは不明ながら、とりあえずエミィはがくりと肩を落としてまた溜息をついた。
「おお、楽しそうじゃな。 何をしておるのじゃ?」
と、そんなトタバタした中で、3人目のトリルやエミィとほぼ同じ背丈のペット、かぐやが部屋に入ってきた。
「あ、かぐや丁度いいところに。 あんたからも一言言ってよ、こいつら好き勝手にキャンプの中のもの動かして、ご主人様の道具も勝手に使ってるし!」
「ほう ……見たところ変わってはおらぬようじゃが?」
「今元に戻した所なの! そのくらい察してよ」
「それはわらわの知ったことではない。 ……しかし退屈なのは確かじゃの。 子守りならばわらわも手を貸してもよいが」
「……は?」
かぐやは語調とか態度とかは平安貴族らしい立ち振る舞いだが、少しつきあえばわかるわがままさが最大の特徴。
そういう意味ではどちらかというと、精神年齢自体は子供とあんまり大差ない。
…そんなかぐやのその一言を聞いた瞬間、エミィの脳裏にすさまじい勢いで嫌な予感が通りすぎていた。
「いや、ちょっと…あんまり家具とかアイテムとか使われるとご主人様が困るというか…」
「後で元に戻せばいいことじゃ」
やっぱりモノで遊ぶ気満々じゃない…と、あまりに期待を裏切らない答えに、かえって言葉につまってしまった。
が、ここでひいてはあまりに自分の立場が無い。なんとか話を続けようと部屋をぐるぐると見回した。
「そ、そんなに暇ならテレビでも見てなさいよ! 凛々もそうしてるし!」
そしてビシッ! といつものクマのぬいぐるみを抱きしめながらテレビの前に陣取る凛々を指差す。
その一瞬、他のペット達の視線もそっちの方へと向けられるのだが…
「この時間帯、たいして面白い番組もやっておらんからのぅ」
かぐやのその一言に引き続いて、トリル以外の全員がその一言に同意する。
ちなみに、凛々が無表情で見ているものと言えば、やたらと熱血なヒーローアニメで、たしかに子供向けではあるが、女性型ペットばかりのこの場にはなかなか不似合いなものだった。
「かぐやおねーちゃん、これボール?」
「数珠玉じゃな。 鞠遊びにするには硬すぎるのう」
「って、さや、かぐや! そんな物騒な物でボール遊びしようとするなー!!」
「この飴食べていい?」
「フリージア、それご主人様のクエスト用!!」
「エミィ、リモコン知らない…?」
「最後に使ったの凛々でしょうが! 私が知るか!!」

――――――――――――――――ー―(中略)―――――――――――――――――――

「うーがーっっ!!! もう知るかー! 勝手にやってなさいよ!!!」
「ああ、ちょっとエミィ、まってくださいー!」
トリルの制止も空しく、エミィはたまりかねてキャンプを飛び出して行ってしまった。その後に残るのはペット達の喧騒ばかり。
そしてトリルは、自分がどうすればいいのかわからず、しばらく呆然と閉まりそこねた玄関を見つめていた。







「…あー、もう。 なんで私ばっかりこんな役まわりなのよ……」
数分後、自分達の主がいつ戻ってくるかわからないがために、どこかに行くわけにもいかず、結局キャンプの屋根の上で、高々と昇りまぶしく輝く太陽を細めで見上げて根っころがっていた。
「トリルもこんな時に限って何も言わないし……アイツ以外にみんなをまとめられるヤツいないってのに……」
言葉どおり、まだ小さな子供であるフリージアとさやを除けば、実はトリルがペット達の中では一番の古株。
それゆえに、いつもはまとめ役の位置に立っているのだが、今回は出来心からか自分も騒動の一部だったために強く出られないでいる。
「……静かなとこに行きたい……」
「屋根の上も十分静かだと思うけど」
「おわっ!!? ……って、メイ? アンタいつからそこにいたの」
突然の声に文字通り飛び上がり、その方へと目を向けると、そこに座っていたのはチビ魔女のメイ。
「最初からずっといたよ。 屋根の上は日辺りも良くて、適度に静かで読書にぴったりだし」
「そりゃまあ、日当りはいいでしょうね…」
ふぅ、と一息つくと、改めてその隣に腰掛ける。
そして少し横で読んでる本の内容を覗いて見ると、かろうじて魔法に関係することなのだということは分かったが、それ以外は自分にはほとんど理解できない難しいことがずらずらと書かれていた。
「…読書って言うか、勉強?」
「そうね。 一人前の魔女になるためには、経験のほかにもいっぱいの知識が必要だから」
「ふーん……」
「…………中で何かあった?」
「…え?」
急な問いかけに、思わずメイの目に視線を合わせてしまう。
それを確認したメイは、パタンとしおりを挟んで本を閉じ、また改めてエミィの顔を見た。
「そんな顔してるし、そんなこと言ってたし…独り言のつもりでも、こんな近くに座ってるといやでも聞こえるよ」
「……」
「まあ、いつにもまして足元が騒がしいとは思ってたけど…」
「って、それって、いつもここで本読んでるってこと?」
「そうだけど?」
「どうりで普段見かけないわけだ……」
「灯台下暗しね。 もっとも、ここは下じゃなくて上だけど。 ……なんだか話が逸れてるわね」
「あー、まぁ、ばかばかしい話よ。 皆が騒いで、私がそれをまとめようとして、失敗して飛び出してきたってだけ」
「なるほど、確かに大したコト無い話だね」
「……それと、ふつーなら悪魔である私の方が騒ぐべきなんじゃないかなーって思ったりもしたけど……」
ふぅ、と小さく溜息をついて、どこか遠い所を見るような目を空に向け、ぼそりとそうつけくわえる。
メイは、無表情のまま溜息をつくように一息つけると、手元の分厚い本でエミィの頭を軽く叩いた。
「だっ!?」
…が、サイズも大きく重さが重さなだけに、グギリと嫌な音が聞こえてきそうな勢いでエミィの首が横に曲がった。
「あ、ごめんなさい。 …えーっと、リカバリー」
ふっ、とエミィの身体をリカバリーの光が包みこむ。その強さは主の魔法ほど強くは無いが、効果は確かなもの。
次の瞬間には首の痛みは消えていた。
「う〜…なんなのよ一体!!」
「そう、それでいいの」
「…は?」
「エミィは元気でないとこっちの調子もでないからね。 落ち込んでるくらいなら、怒って怒鳴ってるほうがいいわ」
そう言うと、横にころがしていた箒を手に取り、ひょいとまたがり、宙に飛び上がる。
「あ、ちょっと、どこいくのよ」
「お茶にしようと思ったけど、葉を切らしていたのを思い出したから。 買いに行ってくるわ」
「…お金持ってるの?」
と尋ねると、無言で帽子を取り、その中に手をつっこんでごそごそと探ると、手を出した時には一枚の500ゲルダクーポンが握られていた。
「切らしたら買ってきておいてって、ご主人様に渡されたの。 それじゃあ、また」
もう一度クーポンを帽子にほうりこみ、またそれをかぶる。
そして、エミィに一瞥すると、今度こそどこかへ飛び去って行ってしまった。
「……怒鳴ってるほうがいいって、私は怪獣かっての」
「いやいや、怒鳴るのはともかく、キミは元気でいてくれるのが一番だよ」
「今度はナイトメア?」
その名を呼ぶと、突然なにもない所に煙とともにシルクハットが現れ、さらにそのシルクハットの中からジャック・オ・ランタンの顔をしたMr.ナイトメアが姿を現した。
「ふむ、驚かなかったな」
「あんたのその登場にもいい加減なれたわよ。 紳士気取りのオバケさん?」
「そういう物言いができるなら問題無さそうだな。 まあ、キミのその悩みも、考えてみれば大した問題ではない」
「さぁ、それはどうかしらね」
「キミが抱いている悪魔のイメージは人間が昔から抱いているものと同じだ。 だがそれを自分に当てはめるのは違うと思わないかね?」
「でも、実際そうなんでしょ? そもそも、私達はそういうイメージを持ってる人間に作られたペットなんだし」
「確かにな。 だが、我々ペットの存在理由はご主人様の手助けをすること。 本来の悪魔のイメージをそのまま具現化したとすれば、悪魔であるキミと悪夢(ナイトメア)の私は逆にご主人様を妨害する能力を持たされているはずだ。 いや、むしろモンスター側の存在として作られていたかもしれん」
「……」
「つまりだ、『悪魔』ではなく、『プチデビル』のキミが善意や誠実さを持っていてもなんらおかしくは無いと言うことだ。 今日のトリルのように、ちょっとした遊びを『天使』ではない『白衣の天使』がしたくなったようにな」
「…そんな簡単な問題かなぁ」
「ダメかね?」
「……ま、そういう考え方も、嫌いじゃないけどね」
ここまできて、ようやく笑顔がエミィの顔に浮かびあがった。
それを見て満足したのか、ナイトメアも(まわりから見て全くわからないが)笑った。
「納得してくれたのならばそれでいい。 悪夢の気配は好きだが、身内から発せられているのは別なところで気分が悪いのでな。 では、また会おうか」
そういいきると、登場の時の映像を逆回ししているかのように、ナイトメアの身体がかぶっているシルクハットに吸い込まれ、煙と共にその場から消え去っていた。
「どいつもこいつも言うだけ言って消えちゃうのね。人をなぐさめるのがそんなに恥ずかしいのかしら?」
そう言っても答えは返ってこず、見える景色は青空ばかり。
「さて、おかげで頭も冷えたし、そろそろもどってやるとしようかな」
そして、屋根から飛び降りようと背の羽を広げたその時だった。
キャンプの前に、青系統の鎧をまとった少女が一人と、同じく鎧を着けた馬が一匹並んで立っている。
背の高さや、馬のサイズから見るに、自分達と同じでメガロカンパニーで作られた人型(+馬型)ペットだろう事は容易に推測できる。
「なに? あなたもしかして新入り?」
羽をはばたかせ屋根から飛び、少女と馬の前に着地する。
すると少女は悪びれた様子もなく、エミィの問いに答え始めた。
「はい、今日からここのご主人様にお仕えする守護騎士ヒルデといいます。 この子はスレイプニール」
名前を呼ばれたのがわかったのか、白馬―スレイプニールは頭を下げてヒヒンとひとつ返事をした。
「ふーん…… よかった、真面目そうな人が来て。 ウチはちょっと子供っぽいのが多いから」
「そうなんですか?」
「見た目からがきんちょなのが二人、一見清楚そうだけどわがままなのが一人、ミステリーだけど子供番組好きなのが一人。 あとはまあ真面目だけど変わり者ばっかりよ、私も含めてね」
そう言ってふふ、といたずらっぽく笑う。
先ほどまでの憂鬱の色は、もはや完全に消え去っていた。
「は、はあ……」
「っと、そうそう、こっちも自己紹介しないとね。 私は見ての通りプチデビル、ご主人様からエミリアって名前もらってるけど、みんなはエミィって呼んでるから、そう呼んで」
「はい、わかりました。エミィ先輩」
「……うーん、先輩はいらないわ。 呼び捨てか、せめてさんづけでお願い」
「あ、はい。 エミィさん、よろしくお願いします」
ヒルデの一言に満足したのか、エミィはもういちど笑顔を浮かべた。
「よろしい。 …さて、新入りが来たということは、ご主人様もすぐ様子見にくるでしょうね。 ヒルデ、最初のお仕事は、ご主人様が帰ってくる前に、お子様達が散らかしたキャンプ内の片付を手伝うことよ」
「片付けですか?」
「プチメイドでも雇って欲しいけど、そうも言えないからねー…… あ、戦い以外の手伝いはイヤ?」
「いえ、何事であれご主人様に尽くすのが騎士の務め。 よろこんで手伝わせていただきます」
「みんなアンタみたいに素直ならいいんだけどね。 じゃ、入って。片付け終わったらお茶でもだすわ、そのくらいにはメイも帰ってくるだろうしね」








 


あとがき
というわけで、プレイヤーがログアウト中のペット達の情景でした。
お気づきだとは思いますが、今回出て来たのがウチがメインで使っているペット全員です。
あと、ちび魔女がリカバリー使ってたりしますがもちろんゲームの中では使ってくれるわけはありません。でも使えなくも無いんじゃないかなと思っての要素で書いてみました
そういえばヒルデの登場で、ゲーム内でのかぐやの立場が無くなってますがそれはご愛嬌でw


……実は最初はトリルをメインに描こうとしていたんですが、いつの間にやらエミィが主役になっていました(汗
おかげでそうでもなかったはずのプチデビルが、今はなんかかわいく感じていますw


 


 

 

 

 

 

 

 

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