真黒の歓迎会




キィ、とキャンプのドアが開き、客人…いや、この日から彼女達の仲間になる事になったペットが玄関から一歩足を踏み入れた。 …その瞬間、それが当然の事であるかのように見計らっていた住人達―一部は除く―が、いっせいに手に持っていたクラッカーを鳴らした。
「……え?」
いきなりの出来事に意識がついていかないのか、ゴシック調のドレス風の衣装を纏ったそのペットは、ぽかんとした顔で固まってしまった。 しかし、歓迎しているつもりらしい一団にはそんなことはまったく関係ないらしく、続けざまに来訪者を笑顔で取り囲んでいく。
「わー、ホントにトリルお姉ちゃんとそっくりだー」
「白衣の天使とは対の存在という事らしいからな、鏡合わせのようなものだろう」
まず、無邪気にその顔を見上げるフリージアと、その言葉に冷静に答えを返すナイトメア。
「じゃが、そっくりというのも噂以上じゃな。同じ服を着ていれば、わらわでも見分けがつかなさそうじゃ」
「これ、さや知ってる。”ふたご”っていうんでしょ?」
「いや…気持ちは分かるけど、多分違うから……」
そして、かぐや、さやと続き、さらに”プチデビル”のエミィがさやの一言につっこみをいれた。
一度こうなってしまうと、あとは決壊した堤防の如く、言葉の洪水が中心に立つ者を押し流していく。
普通の神経ならば、うろたえて何を言っていいかわからなくなることうけあいだろう。
「はいみんな、ストップストップ、せっかく来てくれたのに、いきなり困らせてどうするの」
が、この中にはまとめ役という役割をもっているペットがいて、大抵はそのペットの一言で収まりを見せる。
今回も、白い天使の一声で騒ぎ声はいっせいに収まっていった。
「よし、おちついたね? …あ、いきなりごめんなさい。皆仲間が増えて嬉しいみたいで…」
「ねえ、私もその中に入ってるの?」
ぺこ、と目の前の黒い衣装のペットに頭を下げる”白衣の天使”のトリル…と、一言口を挟むエミィ。
エミィの一言を聞き流したトリルが頭を上げ、互いに向き合うと……フリージアやさやの素直な感想の通り、双子と見間違うほどそっくりな二人がそこに立っていた。
「私が、一応みんなのまとめ役をしています、トリルです。 ”黒衣の天使”さん、今日は貴方のおこしを心待ちにしていました」
「私はエミリア、皆はエミィって呼んでるよ。 まあ、トリルがこんな言い方してるけど、わざわざかしこまること無いわ。ここに来た以上、皆家族みたいなものだしね」
トリルが礼を尽くして言葉にしているのに対して、エミィは最初から砕けた表情と口調で黒衣の天使に声をかけた。
そんなエミィの態度にいちど溜息をつくトリルだが、それを咎めるつもりはないようで、その表情には笑みすら浮かんでいた。
「……”白衣の天使”のトリル。 ”プチデビル”のエミリア」
「ん?」
二人の背後で思い思いの顔をしていたペット達も含めて、いきなり喋り出した”黒衣の天使”の言葉に、全員の頭上に?マークが現れる。
「Mrナイトメア、さや、フリージア、かぐや……テレビの前のは凛々」
順々に指を差しながら、種族と名前を呼んでいく……と言っても、今この場にいるペットで、名前と種族名が違うのはトリルとエミィくらいのものなのだが。
「…”チビ魔女”のメイと、守護騎士のヒルデ、それと四風神もいる……と聞いたけど、留守?」
「え、あ…はい。メイとノトスはお茶の買い出しに、ヒルデとボレアスは第二キャンプで訓練中、エウロスとゼピュロスはそれを見学中ですよ」
「そう。 話通り、ご主人様のキャンプはここで間違いないわね。 ……私は”黒衣の天使” ご主人様からはルーシィという名前をいただきました。 ……今日から、よろしく」
その言葉と共に、ふっ、と今まで淡々としていた表情の中に、わずかに笑みが差し込む。
それを見ていた全員は、その変化に一瞬戸惑いのようなものを覚えながらも、次の瞬間には笑顔でもって返事を返した。
「……それにしても、わざわざ待ち構えていたの?」
と、そうやってなごやかそうな空気が流れたのも束の間。いつのまにやら元の淡白な表情に戻っていたルーシィが、床に落ちたクラッカーの紙くずの一部を拾い上げ、少し呆れたような口調でそう口にする。
「新しいペットが来るかどうかはご主人様の気まぐれだけど、アンタは最初から仲間にしたがってたみたいだから、来るのは分かってたのよ」
「ええ。 …と言っても、”来る”ことはわかっていても”いつ”なのかまではわからなかったので、全員揃ってとはいきませんでした」
「……別に、歓迎は求めていなかったわ。 用意ができてないというなら、しなくてもよかったのに」
その時、ぴくり、と一人のペットの顔が引きつった。
「お主…わらわ達の好意を踏みにじると言うのか?」
相変わらずあまり動きのない表情の顔を睨みながら、ずずい、と一歩近寄り食ってかかるかぐや。さやとフリージアは、よくわからないなりにただならぬ気配を感じ取ったか、早々に退避していた。
「……そうじゃない…歓迎は嬉しい、でも……」
「自分のために、大慌てしなくてもよかった、と言いたいのかね?」
少し節目がちに答えようとしたルーシィへの助け舟を、すかさずナイトメアが提示する。
ルーシィは、ちらりとそんなナイトメアの方へと目を向けると、こくりと頷いた。
「よくいる口ベタな子だ。かぐや、あまりせめてやるな。この子に悪気は無い」
「…ふん、なら言葉遣いから憶えてくることじゃな。 寛大なわらわは許してやるが、今後もそんな調子ならこれから敵を作りかねんぞ?」
不機嫌そうにそう言いはなつと、すたすたとさやとフリージアが逃げて行ったのと同じ方へと行ってしまった。
「気にしないで、いつもあんな調子だから」
「みんななかよくしてくれると有り難いんですけどね…」
エミィとトリルが苦笑しながら、取り繕うようにそう口にする。そして、それを目にしたルーシィは、一度首を横に振ると、大丈夫、と一言。
トリルは少し安心したように胸をなでおろし、エミィはやれやれ、と呆れたような顔で、無意識にはいっていたらしい力を抜いた。
「エミィ、せっかくだ、ヒルデ達にも紹介に行ったらどうだ?」
ナイトメアがコホン、と咳払いで場を取り繕い、ふし穴のような目をエミィへと向ける。
「え、私が? そういうのはトリルの仕事じゃない」
「今のかぐやには手を焼きそうなのでな、そういうのは、トリルの方が得意だろう」
その場に残っていた四人全員で、すこしふくれたかぐやがいるだろう奥の方へと顔を向ける。
それから数秒もしないうちに、エミィは深い溜息をつくと、さっきルーシィが入ってきたキャンプの戸を開けて片手で空いたドアを閉まらないように押さえながら、ルーシィに”出て”と無言で語りかけた。
「……えっと…ごめんなさい……」
「謝る事ないですよ。 お互い、これから知りあっていけばいいんですから」
「では、行ってきたまえ」
「…はい」
その返答を最後にして、エミィがバタンとドアを閉めた。

「さて、歓迎会の準備の続きをやりましょうか」
「こういう事は、来る前にするべきなのだがね」
「今回は時間が無かったから、仕方無いですよ。 あともう少しだし、ほらみんなー、いそいでやるよー」





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第二キャンプ、とペット達に呼ばれているそのキャンプは、セルだけを無意味なほど並べ続けた結果、無駄に広いが、ただそれだけで本当に何も無い正方形の部屋、という説明で事足りるキャンプになっていた。
ちなみに、外観はテントだったりする。
「はぁっ!!」
そんなキャンプの中央に近い位置で、二人のペットが槍となぎなたを振るい、戦っている。
1人は守護騎士ヒルデ、もう1人は、北風神ボレアス。
室内という関係上ヒルデは馬を降りているが、その守護騎士の名は伊達ではなく、デュエルランスとデュエルシールドを体の一部のように操り、自分より上位の攻撃型ペットであるはずのボレアスとほぼ互角に切り結んでいる。
「まだまだ甘いよ!」
ボレアスはダッシュで接近しつつ、突きだされた槍を紙一重の間合いで回避し、すれ違いざまにヒルデの片足を払う。
「くっ…」
とっさに払われたのとは逆の足で地面を蹴り、飛びあがりつつ体勢を立て直して、地面に降りる。
そして、振り返るとほぼ同時に、後方に走りぬけたボレアスの姿を捉え、再び一気に間合いをつめて槍を突きだした。
「っ!?」
しかし、目の前には誰もいない。槍にも一切の手ごたえが無い。
一瞬の戸惑い、しかし、そこから生まれた隙は、ボレアスにとっては十分すぎる時間だった。
「ハード・アタック!!」
槍が自分の身体を貫く直前、ヒルデの頭上に飛びあがっていたボレアスは、渾身の力を込めたなぎなたを、その位置から振り下ろす。ヒルデは直前にその気配を感じ取り、回避行動に移ろうとしたが、時既に遅し。完璧なまでに目標を捉えていたなぎなたは、その体の中心線を確実に叩いていた。
「決まり、ね。 ボレアス、ヒルデ、おつかれさま」
一瞬遅れて、それを横で見ていたエウロスがぱちぱちと手を叩きながら二人の傍に行き、エウロスと一緒になって二人の戦いを見学していたゼピュロスは、リカバリーの詠唱をしながらヒルデに駆け寄った。
「大丈夫ですか、ヒルデさん」
「なんとか。 ……やはり、私ではボレアスさんにはかないませんか」
ゼピュロスのリカバリーを受けながら、苦笑気味にボレアスの方へ目を向けるヒルデ。
互いに使っていたのは本物の槍となぎなたでは無かったとはいえ、打撃にしてみてもそれなりにダメージはあるようだった。
「確かに私とは基本能力に多少差はあるけど……一度同じくらいのレベルの相手とやってみないとなんとも言えないなぁ」
ボレアスは手のなぎなたを消し、ヒルデの傍へ。すこし考えるような形で、すぐ横のエウロスとゼピュロスにちらりと目を向けた。
「……姉さんもゼピュロスも、二人とも接近戦には向いてないね」
「確かに僕達の方が基本レベルは高いけど……」
「それでも魔法型じゃ、攻撃型とガチンコはむずかしいわよ。私は魅力だから多少は大丈夫だけど、攻撃力がね…」
「かといって、同レベルのかぐやはヒルデ相手には攻撃力不足だしなぁ……」
「外でモンスターと戦えればいいんだけど」
「でも、私達ペットは基本的にご主人様の補助が役目。 単体で外には出られないわ」
「いえ、そこまで考え込まれても困るんですけど……」
うーん、と首をひねる3人の風神達。名目はヒルデの訓練につきあっているという事なのだが、事のほか3人は真剣だった。
単に、主がいない時は暇ということもあるのだろうけど。
「おーい、あんたたち。 黒いのがきたよー」
「あ、エミィ。 ……黒いのって?」
そこに、ぶんぶんと手を大きく振って、キャンプにエミィが入ってきた。その後ろには、ルーシィもしっかりとついてきている。
「エミィさん、その方は……トリルさん?」
「ああ、似てるけど違う違う。 ほら、ルーシィ…と、あんたらも自己紹介くらいしてよ」
「……はい。 ……黒衣の天使の、ルーシィ。 今日からお世話になります……」
「あ、前から噂されていた子ね。 私はエウロス、よろしく」
「ゼピュロスです。 そういえばご主人様も、あなたがくるの楽しみにしてましたね」
「守護騎士のヒルデです。 私もここに来て日が浅いので、よろしくお願いします」
「ヒルデが日が浅かったら、私ら四風もそうなんだけどね。 あ、私はボレアスよ」
一通り紹介が終えて、特に話すことが見つからなかったのか、少しの静寂。
その間、ボレアスはルーシィの全身をまじまじと見つめ、ある程度のところまで見たところで、ふっ、と微笑んだ。
「いたよ、ちょうどいいのが」
「……え?」
一瞬、全員が何のことを言っているのかわからなかったが、先程からココにいた残りの3人は、その一言の内容を理解した。 が、今この場に来たエミィとルーシィには一切伝わってはいない。
「って、”黒衣の天使”のレベルって10じゃ……」
「いや…この子、黒衣の天使じゃない。 ……レベル60の、”黒衣の守護天使”の方でしょ?」
「!」
「まあ、少し考えたら分かる事だね。 今のご主人様達のレベルだと、守護天使でもないと連れて歩く意味無いもの」
「…でも、それじゃ連れて歩けるのも70のレヴァリー様だけじゃ」
「それもそうだけどね」
「ちょっとー、あんた達、私達ほおっておいて何話してんのよ」
ぶすっと不機嫌そうな顔のエミィが、話し込んで深みにはまりかけていた四人の間に割り込んだ。
ルーシィはその後ろで、どうすればいいのかわからずに戸惑っている。 ……表情からは、相変わらずそれはよみとれないが。
「あー、ごめんごめん。 実はヒルデの訓練に丁度いい相手がいなくてさ。ほら、レベルが対等で能力も近いの」
「……なるほど、それでもめてたのね。 確かに守護天使だと、差は少ないわね」
「…………えっと……」
全員の視線が自分に集中し、さらに戸惑うルーシィ。
当事者であるヒルデは少し複雑そうな顔をしているが、周囲の四人の顔からは特に何も読み取れず、ただルーシィの回答を待っているようだった。
「……ウォーハンマー」
そして、そのまま数秒も経った時、ふっ、と全身から力を抜いたルーシィが、その手に黒い大槌、ウォーハンマーを召喚する。
「お、意外とやる気?」
「……お役に立てるなら………話すのは、苦手だし」
「…なんかその言い方、どこぞのマンガみたいだね。 拳で語り合うってヤツ?」
「エミィ、それはなにか違うと思うわ」
「皆さん、楽しんでるだけじゃ………ああ、えっとルーシィさん、とにかく、やる以上は、私も本気でやらせて貰いますが……それでもつきあっていただけるんですか?」
「……私と同じように、”守護”の名を冠されるあなたには、興味あるから」
ふっと、わずかに笑みを浮かべて、そう答える。
そして、それに答えるようにし、ヒルデは足元に置いていた盾と槍を拾い上げ、ルーシィに向けて……
「おーい、そういえばヒルデ、さっきのはもう大丈夫なの?」
…構えたところで、ボレアスのなんとも気の抜けた呼びかけで、すでに緊迫した空気に入り込んでいた二人はかるくコケた。
「だ、大丈夫ですよ。 ゼピュロスさんのリカバリー効いてますから」
「そ、ならオッケー。 始めていいよ」
にこっという効果音が聞こえてきそうな笑顔で、そんな二人などおかまいなしにそんな一言。
二人は顔をあわせて、わずかに苦笑すると。再び頭を真剣なものに切り替えて、互いの武器を構えた。


「はぁああ!!」
互いが再び目線を重ね合わせたその瞬間、ヒルデが構えた槍を突き出し、走る。
しかし、ルーシィはそれに怯むことなく立ち向かい、構えていたウォーハンマーを振り、槍を横へ弾いた。
「あんなハンマー、あんなに軽々振りまわせるの?」
「使い慣れたものなら、可能じゃないかな? これは単純な能力値の差だけじゃ、決着はつかないね」
横で二人の動きを見ている四人は、いつの間にか取り出していたエミィのおべんとう箱のサンドイッチを食べながら戦闘の批評を始めていた。
「…まだ、いくわよ」
ルーシィは、槍をはじくために横に振りきったハンマーの勢いを殺さず、更に同じ方向に身体を回転させ、自分の身体を軸にハンマーそのものを一周させ、二撃目を叩きこむ。
手こそ離さなかったものの、あさっての方向を向いた槍では反撃は不可能。 しかし、ヒルデは反射的にもう片方の手の盾を構えてその一撃を受け止めた。
「っこの!」
そのまま盾を持った手を、思いっきり伸ばし、今度はウォーハンマーの方が押し返され、その重みに引っ張られてルーシィの体勢が崩れた。
そして、作り出したその一瞬の隙をついて、今度は立てなおした槍を横一線に振る。
「……ハードシールド」
だが、その一撃は現れたスキルの盾に阻まれて動きを止める。
そして、その次の瞬間に、ヒルデの視界にはふりおろされるウォーハンマーが入っていた。
「ハードアタック」
「うわあぁ!!?」
大きく叫びながらも、とっさに地面を蹴り、ハードアタックで放たれたハンマーを紙一重で回避する。
ルーシィは即座に振り下ろしたハンマーを再び持ち上げ、構えなおした。
「はぁ…はぁ……魅力スキルと、攻撃スキルを…?」
「ヒルデ、その子はビギナーズペットの上級…つまり万能型よ」
「万能型は、攻撃力では攻撃型には敵わないけど、全タイプの能力を均等に持ってます、気をつけてください」
「…あ、メイ、ノトス。 いつの間に来たの?」
横で戦闘を眺めていた一同の中に、いつの間にかチビ魔女のメイと、南風のノトスが混ざっていた。
しっかりと、買ってきたばかりのお茶を淹れて、サンドイッチと一緒に飲んでいる。
「お茶を買って帰ったら、新しい仲間がこっちにいるって聞きましたから」
「……それにしてもボレアス、来て早々訓練につき合わせるんですか」
「ノトス。 あの子、ヒルデの相手に丁度よかったからね、そんな固いこと言わないで」
のんきな空気の自分達だったが、ボレアスはそう言いながら不敵な笑みを浮かべ、再び戦闘中の二人へ目を向けた。
互いに警戒してか、先程とは一転して武器を構えたまま動かない。
「次で終わりかな」
「私はもう少し続くと思うけど……って、エミィ判るの?」
「さてね」
微妙に白々しい顔で、エミィはキャンプに唯一飾り付けられている時計に目を向けていた。
「…あ、動くわよ」
エウロスの声を合図にしたのかのように、二人が互いに向かって走り出す。
互いに何かのスキルを使おうとしているのか、先程までとは少し構えが違う。
「ハードアタック!!」
「…ハードシールド!」
ヒルデのハードアタックによる槍の一撃。 そしてほぼ同時に発動するルーシィのハードシールド。
魔力がルーシィの周囲に集まり、再び盾を創り出そうとしていた―が
「クイックアクション!」
それより一瞬早く、ヒルデの攻撃速度増加のスキルが発動する。
それにより、盾が出来るより先に、槍の先端が身体に届こうとしていた。
「…ダッシュ」
「えっ!?」
しかしそれを見越していたかのように、スキルのダッシュで後ろ向きに走る―いや、飛ぶルーシィ。
そして同時に、魔法スキルの詠唱に入る。
ハードアタックの空振りで勢い余り、前のめりにバランスを崩すヒルデ。即座に足を踏ん張り立てなおすが、その時、丁度ルーシィの詠唱が終わっていた。
「マジックアロー!」
「くぅ!?」
放たれた光の矢を、とっさに盾を構えて受け止めるヒルデ。盾に直撃した矢は、大きな音を立てて砕け散る。
そして一瞬間が空き、槍を構えなおしたヒルデの目に―いや、その場にいた全員の目に映ったのは、普通では考えづらい光景だった。
「…アサシン…スロウ!」
手に持っていたウォーハンマーを、ヒルデに向けて、思いっきり投げつけるルーシィの姿。
投擲武器じゃない武器を投げるという行為に一瞬戸惑うヒルデだったが、すぐに我に帰りそれをかわす。
ハンマーは轟音を立てて床に落ち、ヒルデは武器を持たずに、ただ立つルーシィに向かって、槍を突きつけようとした…が、突然、背中に衝撃が走った。
「くっ…な、何……?」
意識の外からの攻撃にひるみ、ヒルデは思わず足を止めていた。
「……今のは、マジックリング?」
そんな中、観客席では、ゼフィロスが驚いた表情で、ほぼ無意識に呟いていた。
「…ふぅん、なるほどね」
「ボレアス、なんかわかったの?」
「いや、さっきのマジックアロー、なんか音ばっかり大きいと思ったんだけど……あれ、マジックリングの詠唱を聞こえなくするためだったみたいね」
「音?」
「マジックリングは速攻の魔法、一瞬耳を使えなくすれば十分発動をごまかせるわね」
「さすがメイ。 …で、マジックアローを受け止めることに意識が言ってるヒルデは自分の後ろに撃たれたリングに気付かない。あとはハンマーを投げて意識を自分の方に向ければ、リングが命中するまで時間を稼げるってわけ」
「リングが相手を追尾する性質を利用したフェイント、ってところね」
「でもエミィ、ヒルデは結構頑丈だから、これで終わるとは思えな……」
「こらー! 来たばかりの子に何やらせてるんですか!!」
と、ボレアスがエミィに向けて一言言おうとしたその時、入り口の方から、全員が聞きなれた声が飛んできた。
いきなりの怒声に全員が呆然とし、戦闘も観戦も完全に止まっていた。
「ほら来た」
そして、ただ1人それを分かりきっていたと言う顔で、エミィだけがぼそりとそうつぶやいていた。




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「訓練にしたって、来て早々私達が怪我させたらご主人様たちが何と言うか」
ぶつぶつと説教をしながら、リカバリーをかけるトリル。白衣の天使と呼ばれるだけに、他の能力はともかく、回復能力にかけてはこの場にいるペットの中では最も優れていた。
と言っても、事実上ダメージを受けているのはヒルデだけなのだが、ルーシィも念のためと半ば無理矢理回復させていた。
「そろそろ準備終わるころだと思ってたけど、ドンピシャだったわね」
「エミィも、こういうときはあなたが止めてくれないと」
「あはは……ゴメンゴメン」
「…はいヒルデもおしまい。 あなたは真面目なのはいいけど、一つのことをやるとまわりが見えなくなるのを治さないと」
「すみません…トリルさん」
「まあ、もう過ぎたことだし、いいよ。 ……ホントはボレアスとの実戦訓練もやめてほしいんだけどね。武器はニセモノとはいえ、怪我してほしくないから」
「……ボレアスさんとの訓練は……」
「あなたが、ご主人様のために強くなりたいって思っているのはわかってるよ。 ボレアスも、ご主人様もいいって言ってくれたから、認めてる」
その時のトリルの表情は、少し複雑な心中がうかがい知れる笑顔だった。
たとえ訓練でも、仲間が怪我をするのは耐えられないという気持ちは、彼女は特に強いのだろう。
「まったく、天使のくせに勝手なリーダーねぇ」
「こら、ボレアス。 トリルの事も考えなさい」
「エウロス、別にいいですよ。 私だって、そんなものだから」
ふっ、とトリルは、全員に笑って見せた。
「…………あの……」
そんなトリルに、表情はあいかわらずながら、恐る恐る話しかけるルーシィ。
「……私は、別にかまわない……けど……」
「でも、そういう事はご主人様にも言っておかないといけないし……もう少し、時間をおいてほしいの。 来たばかりの子に怪我させたらって、気が気じゃ無いから」
そう言いながら立ち上がると、改めてルーシィの方へと体を向けて、すっと右手をとる。
「…何…?」
「それと、今怒っていた一番の理由は、これからあなたの歓迎会をするから。 主役に怪我をされていたら、気分が悪いでしょ?」
「……歓迎会?」
「って、そんな話、私達聞いて無いよ?」
ルーシィと一緒に驚いたのは、最初から第二キャンプにいた四人。
「あんたたちがキャンプを出て言った後に、ご主人様から連絡来たからね、おかげでやろうと思ってた歓迎会の準備も忙しいのなんのって。 …トリル、なんでこの子達呼ばなかったの」
「あれ、エミィに頼んでなかったっけ?」
「し、知らないわよそんなの! トリルこそ忘れてたんじゃないの!?」
「そ、そんな。 ちゃんと頼んだじゃないの!」
「……あ、あの!」
口ゲンカに発展しそうな気配を見せ始めた二人の間に、割って入るかのように声を出したのは、ルーシィだった。
今まであまり強く声を出す事がなかっただけに、全員が少し唖然としていた。
「……ありがとう、ございます。 ……でもケンカは、やめてほしいです……」
と、思ったらいつもの少し小さい声に戻り、そう口にする。
それから一瞬、静かになったかと思うと…トリルが、笑い出した。
「な、何!? トリル?」
「あはは…ごめんなさい。  そうね、ケンカは嫌いだって言った私が、ケンカしちゃダメだね」
「…はい」


「ふーん…」
トリルとエミィ、ルーシィ以外の全員は、会話からはみ出てしまい、無意識のうちに一歩離れた位置に立っていた。
そんな中で、にやっと意味深に笑うボレアス。
「どうしたんですか?」
「いや、あの3人、見た目通りにいいトリオになりそうだなーって思って」
「…そうですね。 なんだか、ルーシィさんは、あの二人にすぐに馴染みそうです」
天使と、堕天使と、悪魔。人間がよく言う神話やそういった話の中では、大体セットで登場する3つの種族。
カバリア島で、それら3種を模したペットが創り出され、今、この場所で同じところに立っている。それはぱっと見ると、昔からの友達のように親しい者達に見えるだろう。

「おーい、感動のシーンはいいけど、歓迎会の準備終わったんじゃないのー?」
ふっ、と最後にもう一度笑ったボレアスが、そのままの笑顔で3人に呼びかけた
「うん。 …それじゃあルーシィ、他の皆も待ってるから。 ……怪我とかないよね?」
「……大丈夫」
「よし、それじゃあ、第一キャンプへ戻りましょ。 新しい仲間の歓迎会!」








 


あとがき
プレイヤーログアウト中のお話第二弾!
本当は黒衣の天使実装記念でその時期に書き上げたかったのですが、色々あってかなり遅れてしまいました(汗

戦闘シーンを挟んだのは……まあ、単にスキル合戦をやらせたかっただけなのです。
まあ、万能型は全タイプのスキルを持ってると言う設定はやりすぎた気がしなくも無いですが、まあ、自己満足は満たせました(苦笑

ちなみに、ルーシィという名前は、『堕天使ルシフェル』からとってきました。
全部のペットの中で、唯一由来らしい由来がある名前ですw


 


 

 

 

 

 

 

 

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