Breakers

力という束縛
−4−


港町コルコから歩いて十数分という近さから、町の住人にはそれなりに馴染み深い森。
丁度今、いかにも上流階級の人が乗っていそうな、ややきらびやかに飾られた一台の馬車が、その付近に近づいていた。
前方に見えるその森を眺めると、それに乗っている者達より先駆けて向かっていた騎士達が、森を包囲する布陣で構えているのが目に映る。
「おや?」
そのまま眺めていると、その森の奥から、何人かのいかにも盗賊といった格好をした者が何人か駆けだしてきたが、その周辺にいた騎士隊はすかさず彼らに反応し、瞬く間に彼らを捉えてしまった。
「くっ…おい! 馬をよこせ!!」
しかし、その内の3人が騎士隊の攻めの隙間を強引に抜け出し、その勢いのまま、一見無防備な馬車へと走る。
その行動に、馬車の騎手は一瞬怯んで手綱を思いっきり引っ張り馬の足を止めようとしたが、その直前、中から顔を出していた少女―フェイはなんの動揺もなく、その帽子についた羽根をゆらし、その3人に向かって矢のような勢いで飛び出した。
「『フレイムスロア』」
宙を舞い、地面に降り立つ直前、自らのブーストの名を呼び、その手に持つ薙刀に纏わせるかのように炎を巻き起こす。
「なっ!?」
「大人しく捕まるか、戦って捕まるか……どうする?」
そして、威嚇するかのように拡大する炎と共に、身を貫かれるような鋭い眼光を放つその赤い瞳で目の前の敵を見据え……それを受けた3人は、一瞬その動きを止めてしまった。
後ろは騎士隊、前には馬車―と炎を操る少女が一人……普通に走って逃げたのでは、馬を持つ騎士隊からは逃げ切れない。
それならば、目的のものがあり、それを守る数も一人である、目の前のものに向かった方が得策…そう、考えたのだろうか。一瞬の硬直も解け、3人は武器を構えて走り出した。
その行為を目にして、フェイは呆れたように溜息を一つ。
それと同時にさらに強くオーラを解放し、武器を軸に渦を巻くように巻き起こる炎をさらに大きく広げ、それを巨大な剣のような形状に変化させる。
炎帝の剣イフリートソード!!」
一瞬彼らの悲鳴が耳に入ってきたが、それは盗賊の下っ端等といった三下の相手をする時は、大体聞こえてくる声。いちいち耳を貸しているようでは、討伐や護衛依頼などはやってられない。
フェイは、いつも通り何の感慨も無く、炎帝の剣を振る。
「フェイおねえちゃんおつかれさまー」
「さすがですね、フェイさん」
炎に包まれて吹き飛んだ盗賊達を、騎士隊の者達が捕らえる様を見ていると、馬車からフェオと、今回の護衛対象であるマリアが顔を出してきた。
「ありがとうございます。 ……しかしマリーさん、貴方までこの場に来る事は……」
フェオの報告を受けて騎士隊がコルコを出る際に、マリア自身も向かえに出ると言いだしていた。
当然、周囲の者は反対はしていたのだが、実の娘が捕らえられているという手前、その心中を察することができないわけでもない。
結局、冒険者に扮装した騎士隊の護衛と、コルコ駐屯の騎士隊、それにフェイとフェオも加えて、この森に向かう事となってしまった。
「…まったく、目立つなという話はどこへ行ったんでしょうか」
と、そんな光景に対してか、森の方から物音とともに聞きなれた声が。
引き続き、族の出現に警戒していた騎士隊は、一瞬武器を構えてその方向を見据えたが、その向こうから現れたのは、黒いローブの魔術師と、見た目ネコのハーフテイル族の少女―
「ヴィオ、ティアちゃん」
フェイは、その姿が目に入ると、ほっとしたように胸をなでおろした。
ヴィオはその声に軽く微笑むと、今度はマリアの方へと顔を向け―その後ろについて来ていたティリアは、母親の姿が目に入るがいなや、その元へとかけだしていた。
「ただいま戻りました。 マリーさん、少々お疲れのようですが、娘さんは無事です」
「ええ、ありがとう。 ……大丈夫? 怪我は無い?」
「…うん、大丈夫……恐かったけど……助けて、もらったから……」
数時間も経っていないごく短い事件。
しかし、自らの危機に親を想う子の気持ち、子供の危機に子を想う親の気持ち……それは、時間など関係無いということだろうか。
その姿は、見る者の心に何かを残すかのようだった。
「ごくろうさま、ヴィオ」
「ええ。 ……こちらの方は、特に問題なさそうですね」
そしてその横で、互いにねぎらいの言葉を交わす『ブレイカーズ』の二人。
しかし、その顔には特に心配したというようなあとは無く、ただ、ごくろうさま、というだけの感情がこめられていた。
「……で、その引きずってるヤツが犯人?」
ヴィオの手から伸びる縄に縛られている盗賊頭―バドルを指差して、フェイがそう尋ねる。
「ええ……ですが、実行犯、といったところでしょうね。 首謀者は、今ティールが戦っていると思います」
「ふぅん。 なら心配なさそうね」
と、再び安心したように笑うフェイ。
だが、その『相手』の強さの片鱗を直接その目で見せられたヴィオは、そう簡単に笑顔を見せられるような心情ではなかった。
……スピードという一点に置いては、恐らくティールのそれより上。
それこそ、一瞬隙を見せれば、だれであろうと急所を突かれ倒される―そんなイメージすら湧くほどに。
「……だといいんですが」












「…………なっ……」
……その声は、自分が発したものなのか、その瞬間の彼は、それすらも分からない精神状態に陥っていた。
「……さすがに、今のは危なかったよ」
自分の剣は、確実に相手の顔を捉えていた。
そして相手の槍は、伸びきった腕の先。 あの間合い、あのスピードで攻められれば、体勢を立て直して防御する時間など全く無かったはず。
「ドレス型ならともかく、まさかソウル型の力で落ちるのを早めるなんてね」
今、自分の腕と剣は、相手の顔の『すぐ横』を突き抜け、その頭の向こう側にある。
「……なんだ、今のは……」
その現在の状況を頭の中で理解することで、ようやく我に帰ったイオは、再び相手の間合いの外まで飛び、その長剣を構え直した。
……相手の―ティールの頭を、今にも貫こうという最後の瞬間……強烈な突風が吹き、その剣と、剣を手にしていた腕を絡めとリ、その軌道を僅かに横に逸らしてしまった。
だが問題はそこだけではない。
仮にも『風』の力を操る自分は、能力の特性的に発動中は風の影響をある程度受け流し、無視できる。
だが、最後に吹いた突風は、軽く自分の腕の動きを逸らしてしまった。
そんな事があるとすれば、それほどに強い暴風か、もしくは自分以上の『風』の力を持つ者の力か……
「……まさか、近くに仲間を隠していたのか?」
セイクリッドは、通常一人につき一つの能力しか発現する事は無い。
目の前にいる敵は魔法を使るようには見えず、使った様子も無い。
そして、先程の風は、ただの突風なら自分の『風』に対する耐性を貫くような強いものではなかった。
ならば、考えられる事は一つ。近くに『風』の魔術師か、能力者がいるということ。
……だったが、帰ってくる答えは、全く外れたものだった。
「ここにいるのは、私とアンタだけ。 そのへんに転がってた盗賊は最初の方で森の中にふっとんでったし」
「なら、この風はなんだ。 この気配、ブーストのものだろう……」
「オーラの気配が読めるなら、誰の力なのかも分かるんじゃない?」
どことなく満足気な笑みを浮かべながら、そう一言。
未だに吹き続けている風は、そんな彼女を中心に、包みこむようにして展開している。
「……まさか……」
使用者の魔力を使い、効力を発揮する道具はある。
……またその中には稀に、魔力ではなくオーラを使用することで発動する道具―神器と呼ばれるものがあり、それはその特性から、それらの神器から発動する力を、『オーバーブースト』と呼ぶ。
「言っておくけど、神器を使ってるわけでも無いからね」
「!」
考えていたことを口にする前に否定され、一瞬思考が止まる。
セイクリッドは、通常一人につき一つの能力しか発現する事は無い。
イオは、もう一度確認するようにその一文を思い返した……が、間もなくして、その『一般論』を否定する思考が働き始めた……
本当に、一つしか扱えないのか、と
「『大戦』時代は、今の私みたいなのも少しはいたらしいよ」
ティールは、相変わらずの笑顔で、そんな事を言いながら、目の前で思考の深みにはまりかけている顔を眺めている。
そして『一般論』を否定することで、ようやくひとつの回答にたどり着いたイオ。
……今のこの状況…そして彼女の言葉の全てを真実だとするならば、答えはひとつ。
「…一人で二つのブーストを持つ……だと?」
「そういうセイクリッドは『イクシード』って呼ばれてたみたいだけど……今はとんと見かけないね」
そんな称号は、これまで生きていてただの一言も聞いた事が無い。
……だが、
「このドレス・ブーストの名は『シルフレッド』 まともに扱えるようになったのは、あんたと戦ったより後だったかな」
彼女がそう口にすると共に、いままで比較的緩やかに流れていた風が、急速に強まり始め……同時に、ぶらりとぶらさげていた腕を持ち上げ、改めて、目の前の敵に向け、槍を構える。
「……さあ、始めようか!!」
そして、そう叫ぶと共に走り出すティール。
『シルフレッド』の後押しも加わり、そのスピードは『シャドウソウル』単体使用の時と比べても格段に上昇している。
「…なめるなっ!!」
だが、まだ僅かにイオのスピードがそれを勝っていた。
その突撃による一撃を回避し、瞬時に敵の間合いの外へ。
そして放つのは、流れるような神速の剣の連撃より生み出す、渾身を込めた無数の真空波。
「それは、もう効かないよ」
ティールがそんな事を口した次の瞬間、その言葉通りに、放たれたはずの真空の刃が、彼女の身体に到達するその前に、ことごとく掻き消きえていった。
「くっ……」
今の現象は、撃ち出した真空に風…つまりは空気を差し込まれたために起こったこと。
…普通ならば、オーラによるガードで、ある程度の距離は空気が入りこむ事は無い。 だが、そのガードを破る程の力を、風と共に打ち込まれれば、結果は今おこった通りだった。
同じ『風』でも、ソウル型とドレス型では体の外で扱えるオーラの絶対量では大きく差が開く。
元来は体内でオーラを燃焼させるため、直接的な身体強化ではソウル型の方が上だが、元々鎧のように体外で発動させるドレス型には及ばない。
「それに、風の刃ってのはこれくらいやるもんだよ!!」
「っ!!」
……それが普通の風なら、その槍の周囲に何が起こっているのか判らなかっただろう。
だが、その空気の渦が激しさを増すにつれ、『シャドウソウル』を同時に使用している影響か、その周囲の風が僅かに黒く染まり始めていた。
今、ティールの周囲の『黒い風』が、槍を軸に渦を巻くように急速に集まり……巻き起こるその形状は、まさに巨大な剣。
北風の大剣ボレアスソード!!」
「う…ぉぉぉおおおおお!!?」
大きく振り下ろされる風の剣を、かろうじて回避するイオ。
今まで彼が立っていた地面は、轟音を打ち鳴らし、直後には何か巨大なモノが叩き込まれたかのように、大きく、一直線に『風の剣』の長さと同じ距離が砕かれていた。
「まだまだ!」
しかし、ティールはそれに驚愕する暇も与えず、再び槍を構えて走り出し、その射程にイオの身体が入ると同時に、突き、斬りに体術を加えた連撃を放つ。
だが、それらの攻撃を的確に受け止め、時に受け流し、模範的とも言える動きで捌くイオ。
ティールの『風』が全身を絡めとり、若干身体の動きも制限されている感覚を覚えていたが、彼はブーストにより風には多少の耐性があり、スピードならばティールよりも上。そんな中でも、攻撃の合間を縫い、確実に反撃を行っている。
しかし、彼女が『シルフレッド』を最初に見せた時と同じように、全ての攻撃は『風』に絡めとられ、僅かに軌道を変えられてしまう。 加えて、ティール本人も回避行動をとるために、決定的な一撃は全く与えられずにいた。
…さらに言えば、ティールは常に一定の間合いを開くように戦っている。それは長槍という武器を最大に活かせる距離、そして、敵の剣は届くか届かないかという、絶妙の間合い。
「…………そう、か」
何かに気がついた様子を見せるイオ。
ティールはそれを察したが、その次の瞬間には、行動に移されていた。
「!?」
ティールが突きを放ち、腕が伸び切る一瞬。
イオはブーストの出力を引き上げ、さらに加速、その突きを紙一重でかわし、そのまま目の前の敵との間合いを詰め……至近距離から、真空波を放つのと同様に、剣を通して力を外へと解放する。
「ブラストレイズ!!」
「っ!!」
一閃……その一撃は風の鎧を貫き、その顔にまた一つ、傷を作りあげる。 それは、自らの『風』を爆発させるように放出し、一瞬でも敵の『風』を無効化する……オーラの消費量はより大きくなるものの、この状況で彼に残された最後の手段だった。
かろうじて直撃を回避したティールは、間合いをひらこうと地面を蹴った……が、それは許さぬ、とでも言うかのごとく、再び至近距離までつめより…、同じ動作でさらに一撃。
今度は槍の柄でそれを受けるが、やはり鍔迫り合いは避けたいのか、瞬時に剣を離し、別の方向から斬りかかる。
「簡単な話だったな、槍ではこの距離には対応しきれまい!」
剣は、鍔から先は全てが刃。それでも近づき過ぎれば攻撃法は限定されるが、至近距離では槍よりは使い勝手は上。
もっとも、ティール自身も黙って不利な間合いに入り続けようとすることはない。
距離が大きく開いているなら詰めればいい、近いなら離れればいい、それでも、自分以上のスピードの持ち主相手では、その対応もそう簡単に行う事は出来ない。
「……確かに、私の槍じゃ、短く持つのも限度がある……けど!」
そう叫ぶように声を上げた瞬間、戦いの中で散っていた足元の草を、大量に巻き上げる風が吹きあがる。
「なっ!?」
目元をかすめる様に舞い上がった数枚の草が一瞬視界を奪い、その直後には、視界から敵の姿は消えていた……が、一瞬、下から上に向かって何かが顔の前を高速で通り過ぎて行くのが目に映った。
「跳んだか!?」
半ば無意識的にその何かを追いかけるように、顔ごと頭上にその目を向ける。
そして、そこで目にはいってきたものは……
「……槍?」
ティールが握っていた槍が、ただ投げ上げられた慣性と、重力に従い宙を舞っている姿。
その元に、主の姿は無い。
「こっちだよ」
その時、耳に飛び込んできた声にぎくりとするイオ。
槍は完全に真上に向かって投げ上げられていた。となれば、それを投げた者はその真下……自分の、足元にいる。
とっさにそこに目を向けると、全身からあふれでる黒いオーラを、その右手に集めているティールの姿があった。
―まずい。
本能的にも、理性的にもそう認識したイオは、その場を離れようと足に力を込めたが、その時すでに、ティールの拳は完全にその顔面を捉えていた。
「てぇぇぇえええい!!」
見事なまでの命中を見せたその一撃は、その顔面を大きく歪ませ、その身体を大きく吹き飛ばし、その背後にあった一本の大木に、後頭部から激突する。
「ぐ……っ……!」
「まだまだっ! 東風の大槌エウロスハンマー!!」
その直後―イオの身体が地面に落ちきるその前に、北風の大剣(ボレアスソード)と同様に、僅かに黒く染まった風が、ティールの左手に球形をかたどるように集い、そのまま右手と入れ替わるようにその左手が突き出されると、黒い風の塊となり、イオの胸部に向けて叩きこまれた。
「がふぅっ!!」
特大の鉄球か何かを叩きつけられたような衝撃と共に、再び背後の大木に押し付けられる。
……同時に、『ブレイブクロス』によりX字にヒビを入れられていた鎧の胸部分が、その一撃を最後に砕け散った。
「…う…ぐっ……こ、この程度で……」
「終わるなんて思って無いよ!」
真上に投げていた槍が落ち、その手元に戻るとティールはそれをまっすぐに構え、『シルフレッド』の風をその切っ先を中心に、渦を巻くように纏わせ始めると同時に、敵に向けて一直線に駆けだす。
……槍を包む風の勢いは即座に増していき、その先端が敵の身体に触れるより速く、槍を軸にドリルか何かのような形状の、黒い風の渦を創り出していた
「シルフ・チャリオット!!」
「くっ……そおおおお!!」
紙一重で横へと倒れこむような形で跳び、風の渦の直撃は回避したが、僅かに風はその腕をかすめ、すでにボロボロの状態となっていた鎧の腕部分を吹き飛ばし、その下の皮膚の表面を僅かに傷つけた。
そして、ティールがそのまま走りぬけた先にあるのは、直前にイオが叩きつけられた大木。
風の渦を纏う槍の先が、その表面にふれたその直後、一瞬の間に根元から砕け散り、残されたその箇所より上の部分は、重力に従う形で地面へと落下する。
「なっ……」
その大木の残骸が落ちていくその先には、回避のために倒れ込んだイオの姿。
だが、すんでのところでブーストの『風』を解放し、その勢いで落下する大木から逃れる事はできた。
……そう、落下する大木からは。
「……ぐっ!?」
突然、胸に走る衝撃。
一瞬気が遠くなるような感覚に苛まれたが、なんとか意識をつなぎ、その衝撃の元を探るべく、自身の胸元を視界の中へ入れる……と、目に入るのは、胸を踏みつけるように置かれた、ブーツを履いた足。
そのまま、その足の主の姿を見上げると……
「チェックメイト、かな?」
その顔が目に入ると同時に、喉元に槍の先端をあてがわれ、右手の剣も、逆の足で踏みつけられ、押さえられていた。
もう、反撃どころかわずかな行動すらもおこすことができず、ブーストも、こうもおさえられてはいくらスピードがあっても意味がない。
「…………化け物が……」
「案外、そうかもよ」
互いに微動だにせずの一言。
だが、そのセリフを口にする時、二人とも質は違えど、僅かに笑みを浮かべている。
……そして、そのまま数秒の間、両者何も言わず、そして動かず、それぞれがなにかの想いを巡らすような表情で、ただ相手の顔をうかがうように見つめていた。
「……結局、アンタは私に何を求めていたの? 誇り? 強さ? それとも力?」
改めてきりだしたのはティール。
その時の彼女の瞳は、どこか冷めたようでいて、それでもその奥に、何か強い意志を抱えている……そんな印象を持たせるものだった。
「…………何を決まりきったことを。 全てだ」
「そっか。 まぁ、嫌いじゃないよ、そういうのは」
「……なにか言いたい事でもあるのか」
「……強いヤツっていうのは、力をどう振るうかで決まるんだよ。 アンタは、どうだったの?」
「…………さぁ、な。 この3年、お前への復讐のみを考えていた……他の事は、忘れた」
「やれやれ…私も罪なことしでかしたもんだね」 
はぁ、とわざとらしいまでの態度で溜息をつき、自嘲的な笑みを浮かべる。
もっとも、自分が手を出さなければどうなっていたか、というのもあまり考えたくは無い様子ではあったが。
「もう、いいだろう。 殺せ」
イオはティールのその表情を見て、ふっ、と笑うと、ただ淡々とした口調で、その言葉を発する。
そしてその答えは、考える必要もない、と言わんばかりに、一瞬の間もあけずに彼の耳に入ってきた。
「やだ」
あまりにあっさりとした態度に、一瞬あっけにとられるイオ。
……しかし、ティールはかまわず言葉を続ける。
「すでに戦意のないヤツを殺すのは、私は好きじゃない」
「女王へ刃を向けた罪、加えて王女誘拐。死罪は確実……なら、貴様にトドメをさされた方がマシだ」
「……その気持ちは分かるけど、ね」
「…………その気がないなら、自分の手で…!」
その瞬間、喉元に槍をあてがわれたままの状態で、強引に身体を起こし、自ら身体を貫かせようとする。
……が、ティールはそう来るのが分かっていた、というように、相手のその行動より一瞬早く手に持つ槍を、その喉元から離していた。
「くっ……」
胸元から足で押さえつけられ、大きく身体を起こすこともできないこの状態では、少し離されれば到底届かない。
そのわずかに漏れ出した声は、プライドというものも含め、本当の意味で『全てを失った』という事を感じさせるものだった。
ティールはその顔を見て、体勢は変えずにいるものの、終わったか、と溜息を一つ。
同時に、何事もなく騎士隊の元まで連行できればいいけど、と考えていたが…
「ティール、下がりなさい」
その時、背後から聞こえてくる声。
聞き覚えのあるその声に、思わず振り返ると……
「マリーさん?」
フェイとヴィオ、フェオ、ティリアの四人に加え、数名の騎士隊を引きつれたマリアの姿がそこにあった。
「……いえ、マリア様、なぜこんなところに」
その表情を察し、クリエイス女王としての、彼女の本来の名で呼び直す。
それを確認するように頷いたマリアは、引きつれた部隊を制止し、自ら二人の元へと歩み寄ってきた。
ティールはその間に、直前の彼女の言葉に従い、イオの体から足を離し、一歩引いた位置へと下がる。
「……久しぶりですね、イオ」
「……女王……か」
よろよろとした足取りながらも、何とか立ち上がるイオ。
一見すると今にも倒れそうな印象を与えられるが、その足は確実に地面を踏みしめていた。
「俺を笑いに来たか?」
そして、自嘲気味な笑顔を浮かべつつ、そう口にする。
かつて破れた相手に復讐を挑み、一矢も報いることができないまま破れた今の自分の姿は、限りなく無様だ。
……そう思っての一言だろう。
だが、マリアは黙って首を横に振り…少しの間を開けて、改めて口を開く。
「イオ、腕を見せなさい」
「…………」
イオはその言葉に無言のまま、『シルフチャリオット』によりボロボロになった袖を引きちぎった。
その下にあったのは、手首と二の腕をそれぞれ一周するように描かれた何らかの魔導文字。
肌に直接刻まれていたそれは、随分と色が薄かったが……
「……!?」
すぐ後ろでその光景を眺めていたヴィオが、声こそ出さなかったが、驚いていた。
その文字の羅列は、例のロープにも刻まれていた魔封じの呪文。 ロープという拘束具に描くという間接的な方法でもその影響は絶大だというのに、直接身体に刻んだとなれば、その封印の力はどれほどのものか。
「その状態で牢を抜け出したことには感服します」
「これだけ弱まれば、俺レベルならブーストを使うくらいはできる」
「ですが、完全な形の解放は不可能でしょう。 ……彼女に挑むというのなら、まだ時間を置くべきでしたね」
「……マリア様、お言葉ですが私に苦戦しろとでも言うのですか」
戦うことを認めるような物言いに、ティールは若干不平そうな表情で話に割り込んだ。
しかしその顔からは、それほど嫌そうな雰囲気は見てとれず、どちらかといえば『それでも別に問題ない』というものに近いかもしれない。
「ま。 確かにおかしいとは思ってたよ」
そしてそう口に出すと共に、ティールは再びイオの方へと顔を向け、どことなく呆れたような表情でその顔に目を向け、言葉を続ける。
「あんたの力……弱っていたはずのあの時と、ほとんど変わらなかった。そりゃ、ブーストが使える分大変だったけど…今度挑むなら、マリア様の言う通り、完全に封印が解けてからにしたほうがいいよ」
爽やかな笑顔というのも、時には苛立たせる要素にもなりうるというのを判っていての行為なのだろうか。
そう言いきったところで、嫌味も何もない、無駄に爽やかそうな笑顔を浮かべていた。
「……抑えて戦っていた奴がよく言う」
「なんのことかな」
「化け物が」
先程漏らしたものと、同じ言葉を口にする。
今度は返事はこなかったが、さっきは帰ってきた言葉を、ふと思い返しす。
『案外、そうかもよ』
……その一言の中に、なにかとてつもなく深い意味を感じたのは、ただの気のせいなのだろうか。
「イオ」
少し考えかけたその直後、マリアの口から、再び自分の名が聞こえた。
無言のままに思考を切り、名を呼んだその相手の瞳をみすえ……それを確認したティールも、そのまま何も言わずに一歩下がり、再び口を閉じる。
「貴方の力は、誰よりも信頼していました。 貴方こそ我が国で、最高の騎士であると」
「しかしその騎士は反乱を起こした。 力による治世を否定されてな」
挑発のつもりだろうか。さも他人事であるかのような口調で言葉を返すイオ。
しかしマリアは、ただ冷静に会話を続ける。
「……恐れで築かれた平穏は幻想。力だけでは、真に民はついてきてはくれないでしょう」
「だが、心だけで治まるはずもない。 族、魔物……心が通じぬ乱の種は、どこにでも存在する」
「わかっています。 時には、力を振るう必要があることも。 ……理想は、完全なる武力の放棄ですが、今は……民を族や魔物より守るためにも、それは叶いません」
「…なら女王、貴様はどう治める」
「力で民を従えるのではなく、心で力を従え、民を守り、平穏に導く。 それが、私の治世です」
一切表情を変えず、ただ思うがままの言葉……それは、ただ綺麗な言葉を並べているだけではない。
そうあろうと願い、それを目指そうとするつよい覚悟を、その瞳は見る者に強く感じさせていた。
…しかし。
「……戯言だな。心に従わぬ力もある」
「!?」
その言葉の直後、イオが瞬時に体勢を落とし、地面に落ちていた剣に手をかけた。
背後の騎士達は一歩遅れて反応するが、彼らはマリアが制すように手を上げると、やや戸惑いつつもその動きを止める。
……その時すでに、剣の先端はマリアの左胸―心臓の位置の、一歩手前で停止していた。
「このように、な」
「…………」
何も言わず、無言のまま反逆者の顔を見つめるマリア。
イオは、そんな女王の目を一瞬睨みつけると、剣を引き、一歩背後へと身体を進めた。
そして、今度はティールの方へと目をやり、口を開く。
「……少し考えたくなった、死ぬのは後に置こう」
「あ、そう。 ……で、私への恨みはどうしたのかな?」
「それは別だ……が、今はその気も失せた。 また、いずれ」
「!」
言葉を終えたその瞬間、イオの内側から、吹き荒れる嵐のような力を感じた。
―まだ余力は残しているとは思っていたが―
西風の檻ゼピュロスケージ!!」
瞬時にイオの身体を風の檻が取り囲み、その場所からの移動を封じ込めた……かに見えた。
だが、相手も全ての風の力を足に回しているのか、檻が閉じきる直前に、紙一重の差でその内側から抜け出す。
そして、その勢いのまま、森の奥深くへと走り去っていってしまった。
「お、追え! 追えー!!」
直後、その消え去る後姿に向けて騎士の中の一人がそう叫び、一部を残してそのままイオの後を追って行く。
そんな光景を眺めながら、空振りした『シルフレッド』の発動を解くティール。
ふぅ、とひとつ溜息をつくと、近くにいた冒険者に扮装した騎士に向けて、口を開いた。
「デュオ、あんたは先にコルコに戻って連絡。 それと、そのまま王都に馬を走らせたほうがいいわね」
「ん、そうだな。 …って、俺の変装ばれてたか?」
「鎧変えただけじゃごまかせないよ。 ほら行って」
「おう。 …しっかし、おまえは騎士隊に指示できる立場でもないんじゃないか? 的確なのは認めるが」
「指示じゃなくて、そうしたほうがいいって言ってるだけ」
「そりゃま、そうか。 …っと、女王様、それでは、我々は先に町に戻らせていただきます」
「ええ、お願いします」
デュオと騎士隊は一礼すると、一部の騎士を残して、森の外で待たせているだろう自身の馬へ向けて走り出した。
「……追いかけても、あの足に追いつくのは不可能でしょうね」
敵も騎士隊も慌しく消えていき、残されていたマリアとティリア、ブレイカーズの一行。
全員でイオが走り去って行った方を眺めていると、ヴィオがつぶやくようにそう言ったのが聞こえてきた。
「……お母様、大丈夫ですか?」
「ええ。 あなたにも、怪我がなくてよかったわ。 ……髪、ちゃんと切り揃えないといけないですね」
帽子ごとイオに切り落とされていた娘の髪に触れ、優しげな瞳で答える母親。
ティリアは、うん、とひとつうなづくと、安心したような表情でマリアの身体を抱きしめていた。
それを見ていた周囲の者も、なんとなくほっとしたように胸をなでおろしたが、それも束の間のもの。
周囲の木々の間から、なにやら物音が聞こえてきた。
「マリア様……そろそろまいりましょう」
獣かなにかだろう。
とりあえず、この森にはすでに用は無い。早めに退散するに限る…
そう判断したティールが、促すように一言。
「…そうですね」
マリアはただ一言そう口にして、ティリアも姿勢を正すように、お互いその手を相手の身体から離した。








……街と街をつなぐ街道。
周囲の見通しもよく、馬車を狙う盗賊も、獣の襲撃も比較的少ない場所だが、夜ともなれば昼間の安心感などあてにはならない。
ただ、この日は月は僅かに欠けているものの、雲ひとつない星空。
焚き火の明かりだけでなく、星と月が明るいおかげで、夜間の警戒を任された身としてもやりやすかった。
ティールは、焚き火につっこんでいたじゃがいもに塩をふって口に含む。
「……」
イオの一撃を受けた右腕が、軽く痛む。
戦闘中は戦いに集中することでごまかしていたが、思いの外芯の方まで響いていたらしい。
さすがに折れてはいないようだが、しばらくは無理をしないほうがいいだろう。
……その状態で戦い続けていて、今更な心配ではあるが。
「…どうかしましたか、こんな時間に」
さっきの一口を飲み込んで、背後に感じた気配に向けて一言。
一拍おいて、口内にわずかにのこったいもの残りかすを水で流し込み、振り返ると…そこには、微笑みを浮かべたマリアの姿があった。
「少し、眠れないもので」
「なんだかんだ言っても、盗賊も獣もいるんですから、馬車の中に入っていた方がいいですよ」
「でも、貴方の隣程安全な場所もないと思いますが?」
どことなく冗談めいた笑みを浮かべつつ、そんなセリフを口にするマリア。
ティールは、やれやれ、とでも言うように苦笑し、横に置いてあった焚き木を一つ火の中に放り込んだ。
「確かに、その辺の盗賊や獣には負ける気はしませんが、私も無敵というわけではありませんので」
「龍退治の噂は聞いていますよ?」
「…また古い話を」
魔物として最高位に位置する竜を倒せるなら大丈夫、という意味だろう。
それを口にされた瞬間、彼女にしては珍しい、なんとも言えない複雑な表情を見せていた。
「……それで、イオの事ですか?」
ふぅ、と一度溜息をついて、仕切りなおすように一言。
マリアの顔からも、表情が消える。
「…やはり、気にしていたんですね」
「戦いを必要としない、平穏な世を創る事……私は、それを目指したいのです。 それが、奇麗事に理想論……そういったものであることは重々承知しています」
「それでも貫きたいもの、ですか」
「……そう、ですね。 それが、私が成し遂げたい事……」
「でも、そんな理想は大きな力には屈する他は無い。 私は、完全な武力の放棄などは不可能だと思いますよ」
国に抵抗する力がないとなれば、イオが語ったように、族や魔物といったものの襲撃に対応はしきれない。
…どんなに力を抑えても、かならずそれらを抑止する程度の武力は必要になる。
「力はあるに越した事ではありません。 ただ、それをどう使うか……それだけです」
「…なら、ティール・エインフィード。 貴方のその力、どう使おうと言うのですか?」
「叶うならば、二度と仲間を失わないため。 でも…魔王シャドウソウルは、私が扱うには大きすぎる」
マリアの言葉を受け、それを返すその時、ティールのその右手が左の二の腕の辺りに振れる。
……丁度、イオが力を封じるために刻印をされていた箇所と、同じ位置を。
「……マリア様、護るためにも力は必要です。 扱い方を間違えなければ、そして、その心で従える事が出来るなら、捨てる事はありません」
「……戦いを必要としない事と、力を持たないことは違う……そう、言いたいのですか?」
「そんな大きな事は考えていません。 私は、そうした方がいいと思う、と言っているだけですよ」
「……一国の女王を前に、貴方ほどはっきりと言える人も珍しいですね」
「そうですか? まぁ、かしこまるのはガラじゃないので」
そこまで話を続けたところで、二人は笑いだす。
何がおかしかったのか、それともただ意図的に声に出してみただけなのかは、本人達のみが知るところではあるが……
少なくとも、その瞬間の二人は肩の荷でも降りたのか、どことなく楽しそうだった。
「……ティール、今回の私達の目的は聞いていますか?」
ひとしきり笑い終え、改めてマリアが口を開く。
今度は、先程までの気負った様子はほとんどなく、随分と気楽な声に感じられる。
「いえ。 王宮までの護衛としか聞いていませんが」
「そう……そうね、いずれにしても、近いうちに知る事になるでしょうし。 今は、黙っておきましょう」
「……私が関係あるんですか?」
「ええ。 貴方は、半年に一度はクリエイスに来られますし…あの子を護れるだけの力もあります。 何より、私が信頼していますから」
そこまで言うと、ぽん、とティールの右腕を軽く叩き、ふっと微笑んだ。
そして、ティールが言葉を返そうとするその前にすっと立ち上がり、馬車の方へと振り返り、歩き始める。
「……私は、無敵ではありませんよ」
ティールはその後姿を眺めながら、少し自嘲気味な笑顔を浮かべ、ボソリとそう呟いていた。
力はあれど、それが強さになるとは限らない。
過ぎた力は自身を、そして護るべき物までも傷付ける。
自分の力は、どこに行き着くのだろうか。
……わずかに欠けた月を見て思う事は、いつもそんな事ばかりだった。
「ん?」
ふと、右腕の痛みが消えている事に気付く。
……最後の一瞬の彼女の行動。
間違いなく、その瞬間に魔法が行われたのだろう。
「……優しさでは、貴方には敵いませんね」











「―と、言うわけで…当分の間ここでこの子を預かる事になったわけだけど」
後日、適度に曇ってすごしやすい気温のある日、ブレイカーズギルドの中で、軽く大事になりそうな事件が起こっていた。
「…………」

集まれるヤツだけ、ということで集められたメンバー一同は、淡々とした調子で話を進めるリーダーと、その横に立っている少女の姿を機械的に交互に目をやりながら、話半分でその紹介を聞いていた。
「……あの、ティール? 色々と聞きたい事があるんですが」
そんな中で、笑っているのか驚いているのかよくわからない引きつった表情で、半ば無意識的に手を上げながら口を挟むヴィオ。
……なんなんだ、一体。
先日居合わせていないがゆえに、何も知らない他の冒険者は、彼にしては珍しい動揺ぶりに、何事かとざわめき出す。
「なにか?」
「いえ、その方は……」
肩のあたりで切りそろえられたエメラルドグリーンの髪に、同系色の瞳。
そして、見間違うはずのないネコのハーフテイルの耳。
服装こそ、膝上までのスカートに長いベストと、以前より地味で動きやすそうなものではあるが、その姿は間違いなく……
「ティア…さんですよね?」
「そうね。 ま、こういうのは自己紹介でやるべきだね……挨拶してくれるかな?」
呆然とするヴィオの様子など無視するかのようにあっけらかんと答えたティールは、今度はその横に立っている少女―ティアの肩をぽん、と促すように笑顔で叩く。
ティアは一瞬不安そうな表情でティールを見上げるが……優しく微笑み掛ける彼女のその顔を目にして、無理矢理肩の力を抜くように大きく息を吐き、もう一度胸一杯に、大きく息を吸い込む。
…そして。
「ティア・クルージェ、13歳です。 しばらくの間こちらでお世話になる事になりましたので、よろしくお願いいたします!」
若干ひっくりかえってうわずったような声ではありながら、一息にそれだけのセリフを言いきる。
……その直後、単に新しいメンバーを歓迎しているのか、それともフェオ以外で10台前半という小さな子が来たのを面白がっているのか、とにかく他のメンバーは拍手に歓声にと沸き上がった。
文字通り小さい子を可愛がるかのようなそのテンションに、ティアは多少赤くなりつつも、笑って”ありがとうございます”と一言。 その声が、ますますそのテンションを引き上げたのは言うまでもない事かどうか。


「……で、どういうことですか?」
……そんな騒ぎの横で、先程の微妙に引きつった表情を継続中のヴィオと、なんとなく理解しているのか半笑いのフェイがティールに向かって声をかける。
「社会勉強、だってさ。 一般民衆の生活を知るための、ね」
「……そんなの、普通国内でやるでしょう」
「一番信用できる人達に預けたかったんだって。 騎士隊護衛につけるわけにもいかないしね」
「はー、それは光栄だけど……ティールもよく受けたね」
「まぁ、名指しで依頼されちゃね。 ……それに……」
それは、無意識の仕草なのだろうか。
そう言いながら、ティールはその右手を、左の二の腕のあたりに触れさせる。
「私は、半年に一回はクリエイスに行くしさ。 里帰りも、ついでに護衛ができるってことらしいよ」
あははは、とどことなくわざとらしく笑いながら、メンバーに囲まれておろおろしているティアに目をやる。
どこか納得のいかない様子のヴィオと、それとは対象的にまあいいか、的な表情を見せるフェイも同じように目をやると、フェオが再びティアに思いっきり勢いをつけて抱きついていた。
「ま、それだけ私達の事を信頼していただいてるんだから、あんた達も、もっとちゃんとしてもらわないとね!」
「わっ!?」
「っ!」
ドン! という音がなる勢いで二人の背中を叩くティール。
二人がもう一度ティールの顔へと、若干涙が出てしまった目を向けると、これまたいたずらっぽい”いい笑顔”を浮かべていた。
……その表情を目にして、共にまあいいか、という結論に達したのか、二人も笑って、三人で部屋の中心となっている少女の方へと目を向けた。












「……ところで、あの耳はもしかして変装用だったんですか?」
「みたいだね。 マリア様直々の呪いらしいよ」


 



 


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