プロローグ


夜の闇に浮かぶ淡き光、月。…それは美しきものであり、忌まわしきもの。それが満ちる夜、光は強まり闇は色濃く…全てが、力で満たされる。
しかし、狂気の象徴とされる『紅き満月』の夜は…唯一つの闇に、力と死の恩恵を与えるもの…


―それは、少しだけ昔の出来事―
和装の庭園…そこは月と星に照らされ、夜中ながら淡い明るさに包まれている。
「……」
その庭園を見渡せる縁側、そこに座るのはまだ幼さが残る顔立ちに、黒ずんだ銀色の髪と血のような紅い瞳を持つ一人の少女。
その背には、小さな一対の翼。それもまた、血の紅に染められたような姿をしていた。
「………何か、用ですか?」
背後から近づいてくる足音。振り向かず、そう呼びかける。
「ん、起きたらいなくなってたアンタを探しに来たってところかな」
そう言いながら青い髪を少し揺らして、その横に腰掛けるもう一人の少女。どことなく不機嫌そうな表情をみせているが、それはわざとらしさが混じって映る。
「せっかく泊まりに来てあげたのに、勝手にいなくなってさ」
「…ごめんなさい… …あの、わたしはもう少しここにいますから…お気になさらなくて結構ですよ」
顔を向きあわせ、少し微笑んでそう口にする。 ただその瞳には、どこか憂いを帯びた光が宿されていた。
しかし言われた当人は、その言葉を無視するかのように、そこを動く気配など見せることはない。
「ちょっとくらい、言い返すとかしなさいよ。 いじめられっぱなしで…」
少し間を空けて、尋ねる。その言葉を耳にし、少女は少しうつむき顔を曇らせた。
「いいんです……巻き込みたくないし、もう、慣れましたから…」
「慣れるような事じゃないでしょーが…」
「……私は、死神だから……みんな、私を嫌ってるから……」
「……」
「…あなたも、私から離れたほうがいいです… 私といるせいで、あなたも嫌われるかもしれない…私が、あなたを傷つけてしまうかもしれない…」
うつむいたままで、言葉を紡ぐ少女…それは、ただ悲しみだけが渦巻く孤独の詩。
そして、残る沈黙。心なしか、重い空気が立ち込めていた。
「ひゃっ…!?」
その中で、再び声が上がる。誰でもない、少女の驚きに満ちた声。
その声に大した理由は無い。ただ、やさしく抱きしめられただけで。
「…ねぇ、私を傷つけようなんて思ってるの? その力で、誰かを傷つけたことがあるの?」
黙って、首を横に振る。
「だったら、大丈夫。使おうなんて思わない限り、私も、誰も傷つかない……私は知ってる。アンタは底抜けにやさしい、普通の子だって」
「……でも…」
「笑いなって、そんな顔してるといい事も逃げ出しちゃうわよ。ほら」
「う…うん……」
身体を離し、ぎこちなく微笑みを見せる少女… そして、それを見て思いっ切り笑うもう一人。
「…ひどいです」
「あははは、ごめんごめん。 でも、『ひどいです』なんて言えるじゃない」
「…あっ……」
少し顔を赤くして、無意識に口を押さえる。そしてもう一方では、また少し笑っていた。
「…私は周りがなんて言おうと、どう見られようと友達を見捨てたくない。 リースは、ずっと友達でいたいって思える子だから」
「……うん… あ、ありがとう…」
再び、ぎこちない笑顔を見せる。ただ、今度のそれは…先程のそれより穏やかで、すこしだけ希望を見る光が宿っていた。
「きっと見つかるよ、私以外にもリースの事を好きになってくれる人が」

小さく光る多くの星に混じり、淡く紅く光る月……その下で、一つ見つけた小さな希望。
いつか、多くの希望に包まれることを願い…そして、長い闇から覚めることを望み、紅い翼の少女は眠る。

…死天使という、呪われた宿命と共に…




 


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