セレスティアエンジェル

第三話



セレスティアナイツ・ヴァルキリー第七小隊。現在、隊員総出であるひとつの任務にあたっている。
メンバーの入れ替えと同時に作り上げらりた、アヴェマリア級時空艦ニーベルゲンの慣熟航海。それは、これといった問題も起こらず、順調に事が運んでいた。
しかし、そんな任務の最中でも比較的暇をもてあましていたメンバーもいる。それは、第七小隊所属の騎士達…戦闘をメインとする彼女達は、艦の試験航行の中では比較的仕事は入らない位置づけだった。最も、騎士の隊長であるリエルには―もとい、隊長のリエルのフォロー役であるフレアには多少の仕事は回されているのだが。

彼女たちは、学生時代からすでに7人でひとくくりに見られていた。それは、彼女達全員の飛び級等の関連で、最終学年では全員が揃っていた事、行事なども7人揃って行動していることが多かったことがある。しかし、普段の7人は、その中で特に仲のいい者同士…リースはスフィア、カノンと。リエルはフレアと。ルーティはルーンと、といった具合に三つのグループに別れていることが多かった。
それは今でも変わらず、特に時間をあわせる必要が無い時は今までのように分かれていることは多い。


―ニーベルゲン・談話室―
それは、航海が始められてから10日目の朝の出来事。いつものように軍の制服に着替え集まる七人の騎士達だが、半数以上が幾分かの緊張を感じさせる表情を浮かべていた。
この日は、このヴァルキリー第七小隊の新入隊員…特に、騎士に属する者にとっては大きな壁となりうる日でもある。それは彼女達七人には、この時空艦の試験運行中に実地訓練の一つとして調査任務が下されている。
それゆえの、緊張。戦闘というものではないものの、それは徐々に高まっていた。
…その中でも、特にリースの表情は他の者より複雑なものだった。自らの手を眺め、これからのことを想いながら…
「そういえばさ」
すこし重く感じる空気の中、一人が沈黙を破り口を動かし始めた…スフィアだ。
「みんな、なんでセレスティアナイツに入ったの?」
「…いきなりね」
と、言っても実際はそれほど唐突な話題ではない。実地訓練というこの日が近づいてくるにつれ高まっていた緊張、そのせいか彼女達の話題も軍や任務に関するものの割合がどんどん大きくなっていった。
加えて言えば、緊張状態を見かねて適当な話題を探し当てただけにすぎないのだが、会話を始めるきっかけとしてはいいものだった。
「そうですね。私は…力を生かせる場所、だからですね」
「あ、そういえばルーンの魔法って攻撃系ばっかりだったね」
そう返すスフィアの言葉に、少し自嘲気味な笑みを浮かべるルーン。今の発言の中に、ひっかかるものでもあったのだろうか。
「…力の特性が攻撃系にあってるみたいですから」
「じゃあ、フレアは? この中だとなんか一番気になる」
ルーンの最後の一言は、はたして耳に入っていたのかいないのかよくわからない態度で受け流されてしまった。
周囲には聞こえないようなため息を一つ、ルーン自身スフィアの性格はわかっているつもりのようだが、やはり気になるところは気になるらしい。
「ん? …まぁ、ちょっとした憧れ…かな」
「憧れ?」
「そ、すべての世界を護る騎士、それがかっこいいって思ってた、小さいころの憧れだけどね」
落ち着いた声で、しかしどことなく楽しそうな顔でただそれだけを口にする。その表情はいつにも増して子供っぽく見える…6人はほぼ同時にそう思ったが。若干顔に出ている者はいるもののとりあえず口には出さなかった。
「じゃあ、小さいころからの夢がかなったって事? なんかいいね、そーいうの」
訂正、リエルだけはそういった事はかけらも思わず、純粋にその言葉に答えていた。当然思ってもいないため顔に出ようも無い。
「ん、と…じゃあリースはどうだったの? やっぱりミィル先生とかへの憧れ?」
「え? …それもあるけど、もっと別なことも…そうね、ルーンに近いかもしれない」
「私に?」
「……壊すだけの『力』を使えるのは、ここだけだと思ったから。どうせ壊すなら、何かのために…って」
また再び、重い空間が広がる。7人の周辺にいる他の乗組員達にまで、わずかにでもその空気の重さが伝わるほどに…周囲の目が、一瞬だけ集中する。
そして、また取り繕おうと頭を動かすスフィア。ただ、話を振った自分が原因と思い少々焦り気味のために中々いいと思う言葉が出てこない。
「あ、え〜っと…… じゃ、私だけど……え〜とっ、面白そうだったから、とか向いてるかもって思ったとかいろいろあるけど、あとは…」
「あとは?」
スフィアが突然言葉を止めた。心なしか、ほんのわずかだがその顔が赤くなっているように見えなくもないが……急かすようにかけられたカノンの声も空しく、いっそ胡散臭くもなってくるわざとらしい、かわいさを演出しているつもりかもしれない笑顔で『ヒミツ』と答えた。
「…言い出した人がヒミツって言うのも、なんだか無粋な気がしますけど」
「ルーン、こういうときはつっこまないでほしいんだけど…」
あははは…と苦し紛れにしか見えない笑い。そこに込められているものは誰にも知られたくない想い、と言うものだろうか。
とりあえず、微妙に恥ずかしがっているような雰囲気は見て取れる程わかりやすかった。
「え、え〜っと…じ、じゃあカノン。アンタは? 10歳でこーいうとこ入るのってどんな気分だった?」
「白々しいよ、スフィア」
ぼそりとそうつぶやくカノンの顔は、明らかに笑っていた。それも微妙に嘲笑交じりで。
ただ、スフィアもそれを気にしている余裕は無いらしく、その目は『早く答えて話題からそらして』と強く訴えかける光を宿していた。
「…私は、何年かしたら辞めるかもしれない」
え? と全員の声が揃う。
「今スフィアが言ったみたいに、私もまだ10歳だし…今はみんなにくっついてきちゃったけど、このお仕事が本当に私がやりたいことなのかって言うとわからないんだ。 だから何年かはいるつもりだけど…もしかしたら、ね」
「……カノン」
「あ、そんな顔しないでよ。もしかしたらっていう話だからずっとここにいるかもしれないし」
取り繕うように、わらって答える。ただ、やはりその表情はどこか曇っているような感じでもあった。長い間共にいた仲間と離れるのは、やはり考えるところもあるのだろう。
自分で考えていた将来、最年少ながら最も大人びているかもしれないカノン。先のことはわからないなりに、色々考えているということだろうか。
「…さて、と。そろそろ集合時間だよ、任務の詳しい説明はブリッジでやるみたいだから、行こうか」
少しだけ重みが増した空気を見かねたか、フレアがそう全員に呼びかけた。
気まずい雰囲気に囚われていた者は渡りに船とばかりにすぐに同意しソファから立ち上がる。直後、他の全員も同じように立ち、フレアの先導で談話室を後にした。
ただ、ほんの少しだけその心に暗い何かを残して…





―孤島の遺跡―
ある地上界の孤島…様々な樹々が集まる深い森の奥、天井はなく地下も無い、石畳に石の壁で広い通路が作られ、中央に近い位置に祭壇のような空間があるだけのもの。壁も所々が崩れかつての形は失われつつある、人々に忘れ去られた遺跡…この小隊のナイトである彼女達は、そこに足を踏み入れていた。
「にしても、なんでこんなところに造ったんだろうね。陸地からかなり離れてるし」
祭壇の周辺で、きょろきょろと見回すスフィア。少々退屈そうな顔をして、そんなことを口にする。
「確か、大昔には陸地はすぐ近くにあって船とかの往来があったはずだけど、地殻変動や天変地異とかでこの島とつながりのあった陸はなくなって、長い時間の中で人々に忘れ去られた、って聞いてるけど」
「へぇ、そこまで調べてきてるんだ、カノン」
なんの資料も持たず、スフィアの独り言に対する解答をすらすらと口にするカノンと、感心の声をあげるリース。
「別に、調べたのは私じゃないよ。ルーンからこの島のことちょっと聞いただけだから」
「…ふぅん、相変わらずというか、生真面目だなぁルーンのやつ」
メガネに三つ編みと、見るからに勤勉そうなルーンの姿を思い浮かべたのか、カノンの言葉にスフィアは何の気もなしにそう口にする。
なんとなく考えていることを察したらしいリースは、そういう考え方はただの偏見じゃないかなと思ったが、実際に、多少砕けてはいるものの真面目なルーンの性格を思い出しあえて口には出さなかった。
「ほらほら、無駄話してないで仕事仕事。そのルーンのほうはほとんど終わってるみたいだし、こっちも遅れないようにしないと」
と、その中にフレアが割り込んで入ってきた。特に怒っているわけでもあきれているわけでもない、真顔でそう呼びかけている。
今、ルーンとルーティは広い遺跡調査の効率を考えリース達五人とは別行動中。こちらが祭壇を中心に調査していると同時に、この遺跡の構造は大体頭に入っていると言ったルーンとルーティは、外周に近い細かいところの確認に向かっていた。
部隊を分けた時から随時通信はつながっており、フレアの胸元につけられたブローチ型通信機を通して、向こうの状況はこちら側にも伝わっている。
「…は〜い。でもまぁ、こっちも大体終わってるじゃない。細かいところより中心とかの方がモノが大きい分簡単だし」
「……あんたねぇ…」
頭痛でも感じたのか、わずかに怒りが交じった表情で額に手を当てる。
「ねぇ〜」
そして、さらに微妙に間の抜けた声…ヴァルキリー第七小隊騎士隊長、リエルのものだ。
彼女は今の今まで近場にあった岩に座り―というより他の四人に座らされていた。実質ほとんど何もしていないスフィアも立場的には似たようなものかもしれないが、頭のネジが緩んでいるようなイメージを周囲から持たれているリエルの場合は、調査などやらせると普通ないような誤報が起きてしまうような予感が全員の頭をよぎり、結果的に何もさせないほうがいいという結論になってしまう。
「終わった? 私何もしなくて本当によかったの?」
全員、それに答えるような事もなく苦笑。それを目にしたリエルは、頭上に?マークが浮かんできそうな表情で首をかしげるだけだった。
「……に、してもな〜んか拍子抜けよね」
そして、そのまま訪れた数秒間の微妙な雰囲気が漂う沈黙を破ったのは、スフィアのその一言。といっても、その声にも多少のけだるさのようなものが混じってはいたのだが。
「なにが?」
「だって、実地訓練って言うから何かと戦うようなこと考えてたのにさ、やることはただの調査だもん」
「でもまぁ、考えてみれば訓練のために地上界に魔物放つようなこと天界側がするわけないし」
「それに、私たちが地上の生物をこれといった理由もなしに狩るわけにもいかないし、地上の訓練で戦闘が入ること自体考えにくいわね」
不完全燃焼気味のテンションからか、少しヒートアップしているようにみえるスフィアに対し、冷静に地上界における訓練という状況の分析を行うカノンとフレア。
「…でも、これでよかったよ。私はまだ…戦う覚悟はできてないかもしれないから」
「ふ〜ん… でも、それはそれで問題あるんじゃないかな。私達が入ったのって軍隊でしょ? そういう意味だと、入った時点でそのくらいの覚悟はできてないと」
「……え?」
今の疑問符入りの声は、果たして誰のものだったのか…とりあえず、一同の頭の中では『まさかリエルの口からそんなまともな意見が出てくるとは』といった感じの事がぐるぐると回っていた。もっとも、当の本人はそんなことを目の前の全員が考えているとは当然気付かず、『ね?』とでもいいそうな笑顔で四人を見ていただけだったが。
「…でも、戦わなくてすむなら…私はそれでいいと思う」
少し憂いを帯びた表情で、自らの手のひらを見つめながらもう一度リースがそうつぶやいた。
「そうだね…リースは、特にね」
「うん、『力』は…使いたくないから」
「ていうか、まだ使おうと思って使えないんでしょ? 確か」
心中を察したらしいカノンがやさしい声で答えたのに対し、スフィアはあっけらかんと口を挟んできた。
リースの『力』…それは天界に住む誰もが知っている、そして同時に誰もが恐れているもの。彼女がその力を有しているという事は、一部の者だけが知る事実であり…軍の中でもそのことを承知している者は限りなく少なく、このヴァルキリー第七小隊においても、本人も含めれば今は騎士の7人にしか知られてはいない。
「ま、大丈夫よ。何かあっても私がフォローしてあげるから」
「私『達』、でしょ? …それに、リース自身力を抑えられるようになってきたはずだし」
「うん、リースもみんなも、大事な友達だから」
スフィアとカノン、そしてリエル。三人はそうやってリースに微笑みかける。
「…ま、そういうこと。私もがんばらせてもらうからさ、気負うことないよ。リース」
最後に、フレア。リエルのセリフの内容と話題に微妙なずれを感じていたが、そこはもはや完全に無視し、3人と同じように微笑みと共に声をかけた。
「…うん、ありがとう」
少し考えるような間が開いたが、直後ふっ、とその顔から憂いが薄まり穏やかな笑みが浮かぶ。自らの『力』に対する恐れや、戦いに赴くという不安…この任務に赴く前から、空元気や軽口を繰り返しても消えなかったその感情が、今の言葉で少しだけ収まりを見せていた。
―そして、数分が経過して…5人の調査も終了を迎えていた。
「…うん、ここも大丈夫。フレア、ここも異常ないよ」
「OK、そこで最後だったね。 ルーン達の方も終了したみたいだし、合流して撤収としようか」
カノンとフレアの声。それを聞いた残りの3人は”終わったー”とでも言いたそうな空気を出していた。
対してフレアはまだ終わってないよ、と苦笑気味につぶやきながら胸元の通信機に呼びかけ始める。それは調査の終了、ルーンたちとの合流、及び帰艦することを、艦とルーン達二人に知らせるための行動だったのだが…
『………おかみ……魔物……そわれ…』
「…え? 何!?」
一転、緊迫した空気が広がる。通信機から聞こえてくるルーンの声…しかし、それはひどくノイズがかかり明瞭に聞こえるようなことは無かった。
そして、ついには通信が切れる。フレアはあわててルーンとの通信をつなぎなおそうとするが…
「……ルーン、ルーティ! 応答して!!  …ニーベルゲン! 艦長!?」
返答は無い。艦に対しても通信を試みるが、通信機は確かに起動してはいるものの、向こうからの声が全く聞こえてこない…いや、こちらがわの呼びかけすら通じていないのかもしれない。
「……ねぇ、ちょっと…」
リースに呼びかけ、その通信機で同じように艦とルーンに呼びかけさせる…が、結果は同じ。続けて全員のもので試してみるが、それでも通じることは無かった。
「…ねぇ、誰か私に繋げてみてくれない」
次に、カノン。その呼びかけにはスフィアが応じ、言われるままに通信をつなげるのだが…この近距離で、聞こえてくるのは普通に話すスフィアの声だけ。通信機からその声が出てくることは無い。
「…通信障害? …なんでこんなところで…さっきまで通じてたよね」
この遺跡は、訓練とはいえ定期的に調査任務が下るような場所、ある程度の強さを持つ魔法的な力場があることは、以前までに軍が行った調査で確かにされていることなのだが、通信障害が起こるような強さではないこともその中で確認された事実のはずだった。
「……どうする? 通信が戻るまで待機…」
「そんなのんきなことしてたら二人が危ないでしょ! ルーンが魔物に襲われてるって言ってたし…フレア、早く助けに行こう」
カノンの言葉を遮り、半ば叫ぶような声でスフィアが割り込む。それは、一つの選択として間違ってはいないものだろう…
「…ううん、調査そのものは終了してる、一端艦に引き返すべきよ、偵察任務なんだから、船に情報を持ち帰るのが先決。通信障害ならなおさら…」
しかし、フレアはそれを制止し、極めて冷静に自らの意見を口にする。それは隊長補佐として、任務を優先するという『正しい』判断。
だが、それを受け入れない者もいる…スフィアはあくまで仲間の救出を優先すべきだと主張する。
「通信が通じない、居場所も分からない、そんな状態で探しに行ってもすれ違いになるのがオチよ」
「二人はここの外周にいるんでしょ!? 壁に沿って探せば見つかるじゃない」
「バカ、二人は魔物から逃げている可能性が高いのよ? そんな状況で一箇所に留まってるわけないじゃない!」
「そうかもしれないけど、ルーティはともかくルーンは飛べないんだよ!? 逃げ切れる保証なんてないじゃない、私は助けに行くから! ほら、カノンも」
互いに、半分意地になりかけている…それは誰の目から見ても明らかだった。
しかし、両者の言い分はどちらも間違ってはいない…そのどちらが正しいと言うことはない。ただ、自分がどちらの道を信じるか…それだけの問題なのだ。
「…スフィア、悪いけど私は…フレアにつくよ。私達には、任務を全うする義務がある。それに、向こうにはルーティがついてるから…探し出すのは一度戻ってからでも遅くないと思う」
「カノン… そう、そりゃ…そうかもしれないけど… 私は、二人を見捨てるようなことはしたくない!」
あくまで、意見を曲げることはない二人。カノンは少し複雑な表情をしていたが、フレアの判断に従うという意思に揺らぎはなさそうだった。
数秒、無言の時間が過ぎる。 …気まずい沈黙、こうしている間にも時間は過ぎる。その意識が、余計に全員の意識にあせりを呼び、同時に譲れない想いも強くしていく。
「ねぇ、スフィアに…フレア。この際二手に分かれない?」
その時、動き出したのはリースだった。二人の勢いに少し押されているのか、若干声が小さくなっている。それでも、はっきりと聞き取れる声で意見を口に出す。
「リース? …本気で言ってるの? 通信もできないのにこれ以上分散したら…」
「…うん、私はスフィアの意見もフレアの意見も分かる…でも、二人を見捨てるみたいなことはしたくないから、スフィアに賛成だったけど…フレアが言ったみたいに艦に向かってる可能性もある、そうでしょ?」
「…ええ、ルーンならその判断をしていると思うわ」
「だったら、何人かが捜索を続けて、何人かが艦に戻る。帰艦する組は、ルーンとルーティが戻ってきたら照明弾を艦から撃つように言ってほしいの。それで、捜索する組は照明弾を確認したら艦にもどる」
「……ぁ…」
「逆に捜索する組が二人を見つけたら、合流してそのまま艦に退却。これなら全員戻れるはずだよ」
「…リ、リース……」
「これが最善とは言わないけど、このまま騒いで時間を無駄にするよりましだと思う。 とにかく動こう、皆」
再び訪れる沈黙…ただし、今回のそれは気まずさやすれ違いによるものではない。議論の最中、突然割り込んできた者の、あまりにもっともすぎる意見。
感心と同時に、狐につままれたような感覚が全員に広がり、すぐには言葉が出てこなかった。
「………わかった、二手に分かれましょう」
「……スフィア、リース、絶対二人を見つけてきてね。  …それと艦からの照明弾にも十分注意して」
「…フレア、私…」
「……リエル? あなたは…」
「私、二人を助けに行く。私が皆を護るから、フレア、安心して」
いつものように、自分についていくと、もしくは自分に指示を求めてきたように見えたのだろうか、フレアは何かを言おうとわずかに口を開けた…が、目の前の親友の口から出てきたのは、その予想とは全く外れたものだった。
少し拍子抜けしたような、どことなく寂しいような…そんな複雑な気持ちが胸にのしかかり…それを与えた当人は、ただ真剣な顔でフレアの瞳を見つめている。
「…あ、うん。 …そうね、あんたが一番強いんだからね……それじゃ、私は急ぐから。 カノン、行くよ」
「え? あ、うん。 …頑張ってね」
フレアとカノン、二人はそう言った間もなく翼を広げ飛び立ち、艦がある方向へと飛び去っていく。二人とも冷静にしていたように見えて、かなりあせっているのかもしれない…それはそうだろう、今の口論でかなりの時間を消費していたのだから。
―と、その一方で視界から消えていく二人を見送る三人。その瞬間のリースとスフィアの頭の中には、やはりリエルよりフレアに隊長やらせたほうがいいのでは? といった感じの事がぐるぐると渦巻いていた。







―遺跡・外周―
五人とは別行動中の二人―ルーンとルーティ。
二人は今、遺跡の壁を背に立ち目の前に広がる森と…その中に見え隠れする、無数の影を見据えていた。
「ルーン…通信は?」
無表情さは相変わらずに、周囲の存在に対して構えたルーティが呼びかける。
ルーンは通信機に手を当て別行動中の仲間と、そして自分達の旗艦、ニーベルゲンとの通信をなんとかつなげようとしているが…
「…だめです、こっちの状況は届いたと思いますけど…」
それは、たった一言だけの言葉…
―狼型の魔物に襲われています―
しかし、ノイズが激しい状況で送った通信。完全に不通になる前に行われた事とはいえ、向こうがそれを聞き取り完全に把握できたか、というのは五分五分といったところ。仲間と、艦。同時に発信したので両方に届いてはいるはずだが…救援は期待しないほうがいいかもしれない。
「…どうする?」
再び、ルーティの呼びかけ。そう言った時の彼女の身体には、薄く淡い、青白い光の膜がその体表を覆い始めていた。
自らの身体を強化する補助魔法。ルーティが最も得意とする術にして、戦法。
「……こんなことなら、別行動なんか…」
別行動による作業の効率化――それを提案したのは、他でもない、自分。初任務はどうせならうまく、効率良くいきたい…そう思って言い出したことだった。
この島には、小動物の類はいても危険を及ぼしてくるような魔物の存在は無いはず。そういう情報もあり、通信を常につなげておくという形なら問題はないと判断され、艦長からの許可も得ている。
…でも、今考えれば本当に効率化のためだけだったのだろうか? 
これからの事、今までの事…そして、今の事。多分、理由は単なる性格の違い…意見の食い違いはいつものこと…自覚はないだろうけど、時々出てくる棘のある言葉。
…少しあの子と離れたかった。ちょっと距離をおきたくなった。

『片翼の天使』
それは、自分にとって一つのコンプレックス。
その名のごとく、翼を片側にしか持たない天使の変異種。すべての力が偏りがちで、その能力はきわめて不安定、それゆえに下手に力を使わせると本人だけでなく周囲にいる者まで危険に巻き込む恐れがあった。もっとも、ルーンの場合は持ち前の才能でその不安定さをカバーできてはいるのだが
その一方で、たった一つの利点がある。力が偏るがゆえに一つの能力に集中し、その能力に関しては圧倒的な強さを誇る。
…ルーンの場合は『破壊系統魔法』…その一点にその力が集まっている。
『ルーンの魔法って攻撃系ばっかりだったね』
それは、今朝言われた一言。おそらく、言った本人に悪気は無かっただろう…しかし、自分にとっては気持ちがいいといえる言葉じゃない。
リースが背負う『力』ほど忌み嫌われるものではないけれど、誰からも除け者にされていた過去…みんなと出会って、少しは光が見えていた。
…でも、影も未だ足元に広がっている。自分で考えるだけならまだいい、でも誰かに言われると悲しくなる―それが、信じている友達からならばなおさら。

「…ルーン」
「え? …あ、ごめん。ルーティ」
気がついて見てみれば、樹々の間から見え隠れしていた影達が、少しづつ二人との距離を狭めてきている。
そして同時に、樹々の影に隠れていたその姿も明瞭となった。黒い体毛で覆われた、狼型の魔物―ヘルハウンド。
先程までは動転していて『狼型の魔物』としか表現できなかったが、改めて眺めて確信した。この島にいるはずのない魔物であると。
「ルーティ。 通信は通じない、みんなの居場所も分からない…どうするべきだと思いますか?」
なんとか落ち着きを取り戻し、状況を見据えて問いかける。ただ、その答えが返ってくることは期待していない。
「…みんななら、空を飛べる。この遺跡には天井もないですし、戻ろうと思えばすぐに戻れる…そして、私達がいるのは外周。艦までの方向はわかってますし、私は飛べないけど森さえ抜ければ…」
「…艦に?」
「ええ、多分それが最良の手段。 …強行突破とか、あまりしたくはありませんでしたが…仕方ありませんね」
ルーンの右手に着けた腕輪が輝き、その光の中から一冊の書物が現れる。
攻撃魔術のエキスパートであるルーンにとっての最大の武器―魔法の効力を大幅に高める『賢者の石』という名の魔導書。
「いこう、ルーティ。 手早く抜けてしまいましょう」
多くの人から除け者にされていた自分。閉じこもっていた図書館から連れ出してくれたみんな……今回のことは、自分の判断で引き起こした事態。
これ以上、自分のために世話をかけたくはない。
「…待って、迷子は黙って迎えを待ってる」
「……え?」
突然の静止…その声の主はルーティ。二人しかいない中ではそれは当たり前のことなのだが、ルーンは足を止めるだけでなく驚き戸惑った。
「みんな、私達がいる場所は知ってる。 どこを調査するって、あらかじめ言ったはず」
「…でも、来てくれるとは限らないですよ…」
「大丈夫… こんなときだから、みんなを信じるべき …傷つけるつもりで何か言う人じゃない。 特にスフィアは、友達を大切にする人」
「!?」
先程まで、ずっと考えていたこと…それを言い当てる親友。
気が合わない友達…いや、気が合わないわけじゃないし嫌いでもない。テンションが食い違いすぎているだけ…
ただ、その食い違いから少しづつ溝が広がっていった。彼女に悪気は無いと思っていても、自分と彼女は合わないとどこかで思っていたのかもしれない。
「ルーンの心は分かる。 ルーンと一緒にいるのは私が一番だから」
「……」
「でも、ルーンを図書館から連れ出してくれたのは、誰? 私じゃない誰かと、話せるようになったのは、誰のおかげ?」
人から除け者にされて、図書館にこもる事で逃げていた自分。たまたまそこで出会っただけの、ルーティだけが話し相手…自分の想いを聞いてくれる、たった一人の友達。
それは、いつのことだっただろうか? 半ば無理矢理引きずり出されたようなあの出来事は。それでも心地よい、友達ができたのは…
「…スフィアと、リース」
あの二人が来てからだった。
それは皮肉か、よく似た運命を持っていたがゆえに互いの理解深くなったリース。差別の無い瞳で、ただ純粋に友達になろうと言ってくれたスフィア。
図書館という自分の殻に閉じこもっていた自分、それを迎えに来て、外の光を見せてくれた二人…
「もう一度待ってみて、迎えに来るのを。 私も、付き合うから」
…もう一度、か。今の私は、彼女に少し不信感を持っている…それが、ただのすれ違いと分かっていても、彼女に悪気が無いと分かっていても…
「…うん」
少し考えて、小さくうなづきつぶやくように口に出す。そうしている間に、ヘルハウンドの数匹が二人に向けて炎を吐きだしてきた。
しかし、突如二人を包むように現れた淡い光の壁に阻まれ、炎は届くことなく霧散していく。
「魔物も、これ以上待ってくれない。 ルーン?」
「……うん、いくよ、ルーティ」
「…大丈夫、みんなが来るまで、また、私が護る。 何があっても」
「期待してるよ……アスルカル」
「……アスケイル、私も、期待してる。 二人なら、耐えられる」
攻撃魔法のエキスパートであるルーン、補助魔法―特に防御系統のエキスパートであるルーティ。
学生として《時の翼》にいたころ、見習いどころか一流のレベルを超えたその能力の高さから、他の生徒から『神の矛(アスケイル)』と『神の盾(アスルカル)』の二つ名で呼ばれていた二人。
「…ライトニング・ヴォルト!!」
結界に阻まれようとも、炎を吐き続けるヘルハウンド。そして、別の一部は炎ではなく直接集団で飛び掛ってくる。
しかし、ルーンの呪文が周囲に響くと共に巻き起こる雷撃の嵐…二人を囲む結界を包むようにして発生するそれは、向かい来る全ての敵を撃ち貫いていく。
…もう一つ、有名な話がある。学生時代の二人、二組に模擬訓練において…この二人に挑んだ者は、ただの一人も彼女達に一撃も当てることができないまま…倒されていった。



―ニーベルゲン・ブリッジ―
突然行われたこの島には存在しないはずの魔物の出現報告、その直後に、なんの前触れもなく起きた通信不能状態。あまりに予想外の二重のトラブルに困惑しているのは、外で戦う天使たちだけではなかった。ニーベルゲン内部…乗組員の半分近くを占める新入隊員を中心に、不安と混乱、そして焦りが充満し始めていた。
「艦長…通信、回復しません」
「続けて呼びかけてくれ」
しかし、そんな混乱の真っ只中で、艦長のジークフリード、そして副長のディートリヒ…この二人はただ冷静に、状況を見すえている。
「……で、どう見る? ジーク」
「どうかな、確かこの島に狼型の魔物はいないはず。 とはいえルーン君はこんな嘘を言うような子じゃあ無いと思うし…多分、事実だろう」
「…だろうな、だがそうなると問題はその狼型の魔物とやらだ。 時空間の亀裂に飲み込まれた何かがほかの世界に迷い込むことはあるが…索敵状況を見る限りではかなりの数だ。偶然できた亀裂に飲み込まれたにしては、いくらなんでも多すぎる」
「となると、人為的な何かがかかわってるってのが妥当だろうな。しかしこんな数を移送できるような規模の亀裂を、この艦で探知できないように作り出すとは……あ、この通信の状態もその人為的な何か、かもしれないな」
「…また、動き出したか? あいつが」
「考えたくないけど、可能性だけなら十分考えられるね」
二人の中で一つの結論に達したらしく、二人して小さくため息をつく。周囲の乗組員にもその会話は聞こえていたのかもしれないが、全員が必死に復旧作業をしているからだろう、誰の耳にもまともに届いてはおらず、この時は誰からも最後の一言に対する問いかけをしてくるようなことは無かった。
そして少し経過して…作業の必死さとこの状況によるプレッシャーに耐えかねたか、乗組員の一人が冗談めかした声で誰へと言うわけもなくしゃべり出していた。
「そういえば狼型の魔物って、フェンリルとかじゃないですよねぇ…」
フェンリル、といえば天界においてその存在を知らないものはいない、ラグナロクの時代を生きた氷狼の神獣…その何気ない冗談のはずの一言に、ブリッジに立つ乗組員の間に若干の戦慄が走った。
「そんなわけないだろう、あれはほとんど伝説だ。 ラグナロク自体何万年前の出来事だかわかってないし、ラグナロク終結の際に死んだはずの神獣だぞ?」
しかし、それでも艦長と副長の二人は動じることは無い。副長がただ冷静に、その冗談を否定する。
言い出した乗組員は『もちろん冗談ですよ』と軽く苦笑しながら与えられた任務に戻ったが、周囲の隊員は緊張感と集中力に少しだけほつれが生じ始めていた。
「まぁおちつけよディート。 それより通信、技術部の方につなげてくれ。故障の可能性も考えられる」

―艦内技術部―
通信の内容やトラブルからくる混乱と不安、それが広がるのは通信系統を担当する者達だけではない。すでに艦内全体に現状の情報が行き届いた今では、ほぼすべての乗組員にその心情も伝染している。特に、このニーベルゲン新造の戦艦。数度に渡り全システムの確認が行われたはずのものではあるが、新しいものほど何かがあった時の不安は大きくなるもの。技術部の者達は突如の通信不能の報告を聞いて動揺が隠せないようだった。
「…シルフィー、どこへ行くつもりなん?」
ウィルが慌てて部屋から飛び出そうとするシルフィーの手をつかみ、制止する。
「何って、別にどこでもいいでしょ!?」
声を荒立て、腕を振り払う。その表情には怒りだけでなく、不安と焦りがおおきく差し込んでいた。
「……リースさんのことやね。通信が利かなくなって、今一番危険なんは騎士の子たちやさかい……じっとしてられんのは分かる、せやけどそれでおろおろ飛び回ってるだけやったらなんもかわらんやろ? 今あたしらにできること考えな」
ゆっくりとした語調で、それでも真剣な面持ちで語りかける。 …シルフィーは、黙ってそれを聞き、考えている。
「…通信が利かない。 …利かないんだったら、機器が壊れてるのかも…?」
そしてふと思い当たったことを、ぼそりと口にする。ウィルは、その一言を聞き逃さなかった。
「通信関係の点検か、確かに、あたし達にはそのくらいやろうけど… って、シルフィー!?」
急に飛び出すのを制止しようとまた腕を伸ばすが、今度はその手は宙をつかむ形となってしまい、今度こそウィルの声をもふりきって飛び去っていってしまう。
この数分後、実際に通信機器の点検及び修理の指令が下る事になる。ただそれは誰もが予想していたことで、その後の行動は比較的速やかだった。

工具を持ち、半ば全力で目的の場所へ飛ぶシルフィー。その心の中はどのようなものか…必死の表情から察するのは容易な事だった。
そして、艦内機関部の通信系統を司る部位にたどり着く。ただ、精神的なものでかなりあせっているのか、その飛行速度はほぼ全力。急ブレーキも利きにくいと思われる状態で…
そんな時に、彼女に話しかける一人の少女の姿をした妖精がいた。 …しかし、
「キミ、シルフィーで…」
「っわ!? ど、どいてどいてどいてー!!」
「しょゴフ!!?」
あわただしく飛び回っていた時に急に前に割り込んでこられたためか、ブレーキが利かず呼びかける声の主の腹部にほぼ全力の飛行によるヘッドバッドが直撃。そのショックでシルフィーは持っていた工具を落とし、少女はお腹を押さえて一瞬悶絶してしまう。
「〜…ったいわね〜! いきなり飛び出してくるな!!」
「い…げほ、痛いのは…こっちの…ごほ、こっちの方…」
「ったく、この忙しいときに…」
必死なところを呼び止められ、しかも工具まで床に落とさせられた事で怒り心頭のシルフィー。ぶつぶつと文句を言いながら落ちた工具を拾っている。
「はぁ …ち、ちょっと話が…」
「後にしてよ、私急いでるんだから」
なんとか息を整え改めて呼びかけようとしたが、問答無用の切り返しでばっさりと打ち落とされる。
「…急いでるって、あなたどこに行く気?」
「通信機関の整備、早く行かないと…」
え? と思わず声に出してしまう。それはそうだろう、彼女が目的としている機関があつまっている部屋はここなのだから。
半分あきれたようにそれを忠告すると、シルフィーは『あぁ、いつのまに』と、周囲の光景を見渡して、ようやくその事に気が付いた。
道筋などは完全に覚えていたはずなのだが…あせりと言うものは、時にありえない失敗を引き起こしかねないものである。
「ありがと、あとぶつかったのはあやまる。 でも今忙しいの、用無いんだったら手伝うか仕事してよね」
「いや、だからさっきから話があるって言ってんだけど」
「…あっそ、でも忙しいから、作業しながらでいいなら聞いてあげるわよ」
半ば聞き流すような態度でそう言って、工具を手に取り目の前の機械の点検と整備作業を始める。
「…まぁそれでもいいけど…… その前に一つ。あなた、なんでそんなに必死になってるの?」
「必死にもなるわよ、外に出てる皆が…私の友達が、危ないかもしれないんだから」
意識の8割は作業に向いているためか、顔は向けずに声だけで言葉を返す。
普段はサボりがちなシルフィーだが、それでもれっきとした技術班所属の妖精。この上なくやる気に満ちている今の彼女の手はすばやく、的確に作業を進めている。
「そう…でも、それはあの子…リースの事を知らないからいえる言葉。 …あなた、あの子の何を知ってるの?」
「何にも知らないよ。ちょっと前に会ったばかりだし」
「……それでも、友達と呼べるの?」
「誰がなんと言おうと、リースと私は友達。お互いの事なんか、付き合ってく間に分かってくるし。 …聞きたいことはそれだけ? だったらさっさと行ってよね」
ここで初めて作業を止め、背後に立つ少女に目を向け言葉を放つ。しかしその言葉を最後まで言うと、また作業の続きに取り掛かった。
「いえ、まだ。 ……私が、教えてあげようか? リースの正体」
返ってくる答えは、無い。 …シルフィーはただ黙々と手を動かしている、必死に、しかし的確に。
それでも、少女は言葉を続ける。リースが隠す、もう一つの彼女の顔……死神の、真実を。
「―死天使。 あなたが友達だと言っているあの子は、そう呼ばれる存在なの。天界の者なら、一回くらい聞いた事あるでしょう?」
呼びかけるような口調で話しかける少女。シルフィーは、それを聞いているのかいないのか…黙ってただ作業を続けている。
「血で染めたみたいな紅い翼を持つ、全てを闇に屠り世界を壊す呪われた天使。 …今は誰にも言わず、隠しているようだけどね。 そう、友達であるあなたにもね…」
「ねぇ、そこのレンチとってくれない?」
視線は目の前の機器からそらすことなく、声だけを背後の少女に飛ばす。話の腰を折るようなつもりはおそらく無かっただろう、ただ都合がいい場所に彼女がいただけ。
しかし、少女は顔色一つ変えずにいわれたままの事をして、同時に話を続けていく。
「…あの子が持つ力はあまりに強大。いずれは自分の力に飲み込まれて、破壊の化身に…何よりも危険で、何よりも忌むべき存在になる。 それを知ってる人は皆彼女を嫌い、疎んできた…それくらい、あなたにも分かるでしょ? わざわざ危険なものに近寄るなんて事、普通はしないものね」
レンチを使い、ボルトを締める。そして、また別の箇所の点検のために移動を始めた。
少女は動くシルフィーから一定の距離を開けながらもついてまわり、さらに言葉を続ける。
「これを聞いても、友達と呼ぶの? あの子の近くにいれば、いずれあなたも殺されることになるかもしれないのよ」
無言。 別の箇所の点検に入ったシルフィーの口から、すぐに答えが返されるようなことは無く…ただ、手を動かしている。
…そうしてから、一分近くは経っただろうか。そこまできて、シルフィーはもう一度振り向いた。
「なんか難しいこと言ってたみたいだけど、そんなの関係ない。正体がなんだろうが、リースは私の友達。 それに、あのお人よしが私を殺すってあるわけないわ。 それこそ時空論的確立よ」
そう言って、再び仕事に戻る。ただ先程まで手を出していたところは終わったのか、今度はすこし上方にある物の点検に入っていた。
…少女は、先程のヘッドバッドや何度か話を遮られたことで少し不機嫌そうでもあったが…シルフィーの最後の返答に少しだけ満足そうな笑みを浮かべていた。
「シルフィー、気持ちは分かるけど急ぎすぎやで… さっき正式に点検の指示が入ったさかい、すぐにみんなも来る」
その時、早足に飛んでくるウィル。点検を始めたシルフィーの横に立つように飛び上がり、そう呼びかけた。
「そう。 あ、下のヤツは問題ないわ。 見たところこっちも大丈夫だとは思うけど…一応続けるわ、ウィルは他をお願い。 手は抜かないでよ」
「手抜くなて、アンタにだけは言われとうなかったな。 …普段からそれだけ真面目にやってくれたらええんやけど」
「大きなお世話よ。ほらさっさと行って  ……って、あんたもまだここにいたの? 話終わったんならさっさと仕事に戻りなさいよ」
ウィルを見送るように、ふと振り返ったことで少女が視界に入ったらしく、半ばにらむような目をしながらそう言う。
そして、次の瞬間にはまた作業に集中するようにして正面の機器に向き直った。先程言い張ったその言葉どおり、その表情には一切の曇りも無い……それは本気で友達を心配し、自分にできる限りの全ての事をする…そういう確固とした信念を持つ者の顔だった。
少女はもう一度笑みを浮かべると、ゆっくりとその場から飛び去っていった。




―孤島、森林―
「…まずいな、ずいぶんと移動してしまったみたい…」
無数のヘルハウンドの群に追われ、木々の間を走るルーンとルーティの二人。先程までは仲間達に見つけてもらうため、自分達が調査を行っていた遺跡の外周から動かないように戦っていたのだが…
二人は攻・防において最強レベルの力を持っている、しかし、長時間戦闘を続けている間に徐々に相手の数の多さに押され始め…倒しても倒してもどこからともなく現れる無数のヘルハウンド。さすがにその場にとどまった戦い方では耐え切れなくなり、『逃げ』を交えた防戦へと移行せざるを得なかった。
しかし、その場から逃げると言うことは自らの居場所を変えるということになり…やられてしまえば元も子もないという事もあるのだが、仲間から発見される可能性は限りなく低くなる。
「…大丈夫?」
「うん、ルーティが護ってくれてるから…そっちは?」
「大丈夫」
二人の身体には、敵からつけられた傷は一つもない。それはやはり二人の実力が大きいということを示している。
だがそれもいつまで続くだろうか…これだけの実力を持っていても、限界というものだけは確実に近づいてくる…そして、それがくればやられてしまうことは間違いない。ルーンは今、仲間と合流する前にそうなる事を一番に恐れていた。
「せめて、こっちからみんなに場所を知らせられれば…」
戦闘中も何度か交信を試みたが、通信機は未だに沈黙している。今後も復旧する見通しは無いため、通信機の回復を待つ作戦は決して得策とは言えない。
こんななかでできることと言えばのろしを上げるくらいかもしれないが、周囲に茂る木々はかなりの数。下手に火を出して広がってしまえば自分達ごと焼けてしまい、それこそ収拾がつかなくなる可能性が高い。
「のろしか…のろしの変わりになるようなもの……」
ルーティは自らの身体を魔法で強化し、格闘で一体ずつ確実に仕留めている。 その横でルーンは無詠唱の呪文を繰り返し、攻撃の手も休めずに考え続ける…この状況の、打開策を。
「そうだ、魔法で…」
上空に…もしくは上空から真っ直ぐに落ちてくる魔法を放つ事で、のろしの代わりにする。今この状況で、他に自分達の居場所を知らせる手段は無いだろう…善は急げとばかりにルーンは呪文の準備に入る。
しかし、この島は遺跡しかないわりにはっきり言って広い、万が一島の端の方にいたとすれば小さな魔法では気付かない可能性がある。だとすれば、遠くからでも視認できるほど大きく強い魔法を撃つ必要がある…
「消耗が大きいけど…これしかないか。 …ねぇ」
「?」
「今から、大きい魔法を使うから…わたしを護る事に集中して!」
そう強く呼びかけると本を開き、今回始めて呪文使用のための詠唱を始める。
…呪文の詠唱は、その言葉に宿る力により魔法の力を増幅する役目がある。しかしそれはあくまで増幅のための行為であり、力の強い者であれば詠唱無しでも強力な力を行使することができる。
速度を優先させるためとはいえ、ルーンが今の今まで一度も詠唱を使わなかったあたりその実力が伺えるが…今から放つ大呪文は、詠唱無しで使うにはまだまだ力が追いつかないようだ。
ルーティが張った防護結界の中で、魔力を呼び覚ます言葉を紡いでいく…そしてそれが進むごとに、周囲の空気が少しづつ変わっていく。嵐の前の、ピンと張り詰めたどこか重い空気に…
と、その時、ヘルハウンドのうちの一体が結界の弱っていた部分を突き破りルーンに接近する。
「……むっ…」
結界のほころびた部分を瞬時に修復し、同時にルーンに飛びかかろうとするヘルハウンドの眼前に滑り込む。そしてその鼻先を右腕で、喰いかかろうと開いた顎を左腕で押さえ…
「…ビュレテイション」
放つのは、彼女が持つただ一つの攻撃呪文…それは、直接相手に触れたときにのみ発動できるもの。
触れた右手が一瞬強く光ったかと思うと、それを受けたヘルハウンドの身体が高速で回転する砲弾のように吹き飛んでいく。結界を越えて、射線上の全てを巻き込みその先にある巨木に激突、絶命した。
「ルーティ!!」
そして、直後に響く自分を呼びかける声。その声に振り向き、二人は目を合わせた。
「…我が下で轟け 雷帝の槌」
詠唱の終了と共に本の開かれたページの文字が強く光り……雲にも届こうかというはるか上空に、収束された雷…輝く青白い光球が出現。それは急速に巨大化していく。
「…トール・ハンマー!!!」
そして、その増幅が極限に達した瞬間に唱える、『力』の引き金となる最後の一言。瞬間、二人の頭上に展開していた光が極太の光柱となり、轟音と共に大地に突き刺さる。

…一転して、静寂。周囲にあったはずの樹々は焼ける暇も無く炭となり燃え尽きて、二人の周辺にいた全てのヘルハウンドも同時に殲滅されていた。
そして、着弾点の中央。淡く光る半球状の結界の中で、恐怖と自信が入り混じった表情で二人はそこに立っていた。
「…はぁ…はぁ…  …ぁあ〜、やっぱり疲れる…」
一気に気が抜けたか、ルーンはぺたりと地面に座り込む。
一方でその隣のルーティは、強力な壁を作っていたせいか若干息をきらしていた。結界を解き、改めてルーンへと目を向ける。
「……無茶しすぎ。 …自分に落とすなんて、私が気付かなきゃ二人ともやられてた」
「だから、目で合図したじゃないですか。 私を中心にしないと、全部はまとめて倒せませんでしたし…」
改めて、周囲の状況に目を向ける。結界で護られていた自分達が立っていたところを除き、周囲数Mは黒く焼け焦げた地面が広がっていた。
そして先程まで生きていたヘルハウンド達の配置は、四方八方にばらばらに散っていて、攻撃の中心を自分以外の場所にしたのでは確かに全部は仕留められない状態だった。
「今のが、皆に見えてるといいんですけど…」
「……あの音と、光なら、見えてるはず。 …けど、まだ終わってない」
「…え?」
静かだったはずの空間に突如風が吹き、木々がざわめき…二人の心に乱れを呼ぶ…ルーティは改めて身構え、周囲の気配を読むべくピンと神経を張り詰めさせる。
しかしルーンは…大魔法の反動がまだ抜けきっていないのか、いまだ息は乱れて呪文に集中できる状態ではない。
「他の場所にいた…ヘルハウンド達…?」
「さっきので、敵にも居場所気付かれた…」
「……予想はついてたんですけど、まさかこんなに早いとは…」
少しづつ乱れた呼吸を元に戻し、再び立ち上がり身構える。しかしそれでも、消費してしまった魔法を使用するために必要である根源的な『魔力』の回復はしていない、すでに放てる魔法の強さも数も限られてきている。
一見すればまだまだ大丈夫そうに見えるルーティも、ルーンの大魔法をガードするためにすでに同等の力を消費している。さらに、戦闘中常に展開している身体強化魔法は一瞬の消費量こそ少ないものの発動中は常に力を使い続ける事になるためにそう長くは持たない…さらに言えば、周囲数Mの障害物は全て消し飛んでいる。見通しがよくなった、といえば聞こえはいいかもしれないが、消耗した今の状態では障害物があり、敵の一度に飛び掛ってくる数が限定される先程までの状況の方が都合がよかった
絶体絶命…ではないかもしれないが、危険な状況というのは変わりないだろう。
「…神の盾と、神の矛……少し強いから…それだけの肩書き…」
「…?」
一匹、また一匹と包囲する敵の数は増えていく。
「本当の神にはなれないけど…私、この名前は気に入ってるの」
「………ルーン…」
「こんな雑魚相手に『神の武具』がすたれるわけにはいきませんよね。せめて皆が来るまでは」
「…うん」
疲労に満ちた顔で…思いっきり強がりの笑顔を、隣に立つ自分のパートナーにルーンは向ける。決して言葉は多くないけれど、心から信頼しあう矛と盾…その中の強い意志は、お互いに分かり合っていた。
構える二人に、数体のヘルハウンドが攻撃を仕掛ける。ルーティ防護結界を張り、ルーンはその中で…少しでも力を底上げするために、呪文の詠唱を始める。
…しかし、それも数分もしない間に破られる。弱った状態の結界では、長時間強度の高い状態を維持してはいられなかった。
そして、風船に穴が開いたかのように全方位の結界が消滅。再び張りなおそうとするも、すでに結界の内側となる地点に数匹が踏み込みほとんど無意味なことだった。ルーンの迎撃も、詠唱をはさむために連射が利かず間に合いそうに無い。ルーンとルーティ、二人に向けて数体が飛び込む。
もうだめか…そう思い、目を閉じた瞬間だった。先程の呪文で樹と葉が燃え尽き、ぽっかりと穴の開いた上空から無数の赤白い光の矢が降り注ぎ、向かってきた全ての敵の身体を撃ち抜いていく。
「…えっ…?」
突然の出来事に二人の思考は停止する…しかし、気が逸れたその一瞬の間に、光から逃れた別の2体のヘルハウンドが飛び掛かる。
「ってぇぇえええい!!」
「…はぁ!」
その刹那、左右の木々の間から、背に翼をたずさえ超低空、高速飛行で飛び出す二つの影。一方は剣を、もう一方は槍を振るい二体の身体を切り裂き、直後に体制を立て直しつつ、武器を構えたまま二人を護るような位置に降り立った。
「よかった、無事だったみたいね」
「…まったく、あんな大きいのを使うなんて、無茶するわね」
「スフィア、フレア……」
身体と武器は敵へと向けたまま、わずかに視線だけを二人に向けて口を開くスフィアとフレア。フレアはどことなくあきれたような口調でいたが、その目は安堵の笑顔で満ちていた。
「…じゃあ、さっきの矢は…」
今度は矢を放った誰かがいるはずの真上へと目を向ける。
そこには、地面に向けて赤白く輝く光の矢がつがえられたボウガンを構え、背にある翼で宙に浮くリエルの姿…しかしその表情はいつものどこか気の抜けた幼い少女ではなく…雄々しく、強く、全てを射抜くかのような鋭い光を瞳に宿したもう一つの顔。普段とのギャップから二重人格とまで言われた、騎士としてのリエルがそこにいた。
ルーンからの視線を確認すると、リエルは黙って4人のところへ降り立つ。その瞬間の雰囲気もやはり普段とは似ても似つかない。
「ところでフレア、何でここにいるの? 先に艦に戻るってあれほど騒いでたのはどこのだれだったかな〜?」
「う、うるさいわね。居場所が分かって…確実に合流できるのなら話は別よ。 …それよりリースはどうしたのよ、あんたと一緒にいたはずでしょ」
その横でいやみたらしく話しかけるスフィアと、答えに迷い一瞬舌が絡むフレア。ルーンはこの二言で、別行動していた間に何があったのかを悟った…同時に、この二人もさらに別行動を取っていたことも。
「っ!? 来ますよ!」
その間に、先程の数倍の数が飛び掛り、また別のものは炎を吐いてかかってきた。
一部はすばやく反応したリエルのボウガンに打ち抜かれ、また別の一部はスフィアとルーティの一撃で退ける事ができたが、それでも対応しきれなかった相手がさらに飛び出してくる。
ルーティがあわてて結界を張りなおし、吐き出される炎を受け止める…しかし先程と同様その強度はいつもより低い、いつ破られてもおかしくは無い状態だった。
「…スフィア、リエル! ルーティの盾も持ちそうに無い。なんとか私達で!」
「……大丈夫、こっちも追いついて来たみたいよ」
「え?」
どれだけ倒しても際限なく現れるヘルハウンド。それらを相手にしながら、スフィアは自らの上空に目を向けてフレアの一言に言葉を返した。
その瞳に映るのは、身長を上回る長さの柄を持つ大槌を握った、エメラルド色の髪をした背に翼を持つ少女。
「カノーン! 思いっきりやっちゃえ〜!!」
「カノン!? …みんな伏せて!!」
スフィアの声を受けて、ほとんど自由落下に近い軌道と勢いのまま大きく槌を振りかぶり落ちてくる。
これから振り下ろされるであろう槌の面がわずかに光を発していることから、武器を媒体にした魔法でも使おうとしているのは明白。フレアとスフィアは爆心地となる地点から飛び退き、その瞬間に備えた。
「ジオ・デストロイ!!」
そして、比較的敵が密集している地点の地面に振り下ろされる槌。振り下ろす勢いと重量に落下速度も加わり、轟音と共に大地を響かせ…同時に、その一点を中心にして地面そのものが爆発、半径1M四方の地盤が周囲にいたヘルハウンドを巻き込み砕け散った。
しかし、ルーンたちを挟んだ逆方向の敵はまだ片付けられてはいない。今の一撃で若干ひるんだものもいたようだが、それでも一部は飛び掛ってくる。飛び上がってしまったスフィアとフレアでは、対応するにはタッチの差で向こう側がはやいだろう。カノンも武器が武器なだけに一撃を放つのが若干遅く…リエルも矢を撃ち応戦しているが、まともに動けないルーンとルーティを護りきるには敵の数が多い。
ついには、その内の2匹が二人を射程に捕らえ牙を向けた…。
「!!?」
その一撃を受けることを覚悟し、目を閉じかけたその瞬間。正面の木々の間から猛スピードで飛び出し、その二体を剣の一撃でまとめて斬り飛ばす天使が目に入った。
「リース、ナイスタイミーング」
一度上昇し、勢いを殺し地面に降り立つリース。
周囲の敵が片付いていることを確認すると、自らの身長に限りなく近い長さの大剣を地面に刺し、立て続けに起こる衝撃から再び座り込んでしまっていたルーンの手を持ち、立たせた。
「ルーン、立てる?」
何とか笑顔を見せてリースの手を離し、いつの間にか手から離れていた本を拾う。運のいいことに地面に落ちたのは閉じた状態で、汚れているのは壮丁だけだった。
「…それより、スフィアもリエルも速すぎるよ…急ぐのは分かるけど、私まで見失っちゃうところだったじゃない」
「あ、そっちもそうだったんだ。フレアもさ、ルーンたちの居場所が分かるなりものすごい勢いで飛んでいくんだもん」
出遅れた二人が何の気もなしに三人に向かってそんな事を口にする。もっとも、結果的にギリギリの状況に追いつくことができたので感謝はされても非難されるいわれは無いのだが。
しかしスフィアはカノンからの言葉を聞くなりにやりと笑い、再びフレアに言葉を投げた。
「へぇ、やっぱフレアも助けに行きたくってうずうずしてたんじゃないの? それを強がって任務優先だとか気取っちゃって、もうちょっと素直にっ痛!?」
その言葉の途中でフレアの槍の柄が脳天に振り下ろされ、一瞬頭を押さえて悶絶する。
「いちいちのってくるな…全く。 それよりルーン、ルーティ、大丈夫?」
そして、何事も無かったかのように振舞うフレア。他の者は一瞬対応に困ったが、触らぬ神に祟り無しという言葉もある。あえて何も言わない方を選び、たった今の二人の行動の追求はしないようにした。
「大丈夫です、皆、心配かけて…」
「黙って……まだ終わってないみたい」
ルーンの言葉を、リエルの一言が遮った。その瞳はまだ、騎士としての顔が表に出ていることを示している。
瞬間的に、沈黙が訪れる…リエルの戦闘に関する感覚は七人の中では群を抜いて高い。それを知る六人は、その言葉に従い周囲の状況に目を向け…そして、瞬時に導き出される判断。当初の予定通り、全員の合流と同時に速やかに退避する。
飛び立てる者は飛び立ち、頭上の空間から森林を抜け出す。ほぼ全員が予測していたとおり、ルーティは疲労が限界に近いためか飛行スピードも遅い。そのためにフレアが手を引く形で…そしてルーンは、スフィアに抱きかからえるような形で離脱する事となった。
だが、まだ危機は過ぎ去ってはいなかった。こちらが行動に移した間もなく、ヘルハウンドは、次々と自分達を次の仲間のための土台のようにして積み、その上を駆け上がってくる。
そのあまりに統率の取れた行動が瞬間的に行われた事に驚く七人だったが…その中で一人、いち早く平静を取り戻し反応したのはリエル。体をヘルハウンドの集団へと向け、その土台へと一発の光の矢を放つ。
…その矢の輝きは先程まで何度も放っていたものとは違い、より強く激しいもの。それは寸分違わず土台の一番下となる位置に当たり、一瞬の間を空け……弾けた。
全てを吹き飛ばす閃光、そう言っても過言ではないだろう。着弾した地点にいたものは当然のことながら、その上に立っていたもの、周囲で構えていたもの…そして、その一撃に巻き込まれたであろう一本の樹が倒される。
土台は崩れ去り、上にいた爆発を受けなかったものも地面に落ちていく。もはや相手がこちらを追う事は不可能だろう。そう判断したリエルは、先に走らせた6人を追って羽ばたいた。

「――聞こえますか? こちらはニーベルゲン。応答願います。聞こえますか?」
その後の艦へと向かう飛行中、突如通信が回復する。フレアはそれを受けて自分達の位置と状況、任務そのものは完了している事を知らせ、安堵したように顔をほころばせた。
「無事です。任務完了……全員、無事生還です」



 

 


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