トリコロ
〜IF STORY’S〜


−2−


「うわ、本当にリムジンきとるわ…」
放課後、真紀子、多汰美、景子の三人はナナについていく形で、いつもは通りすぎるだけの校門までたどり着いていた。
そこで待っていたのは、話はあらかじめ聞いていたとしても、驚きを隠す事はできない光景。
誰もが一度は憧れるという、リムジンの送迎風景だった。
「乗って…たしか方向は一緒だから……」
「乗って、って言われても……なぁ?」
「…遠慮、しなくてもいいのに」
「遠慮って言うか……」
自分たちの生活からは完全にかけ離れた状況に、真紀子も多汰美も、車の中に入るというだけの行動すらおこせないでいた。
すべてはその車がリムジンという高級車だからこその反応なのだが……一般庶民の性質というべきか、しりごみは仕方ないのかもしれない。
「青野、由崎、ここまで言われたら、乗らないほうが失礼ってものよ?」
しかし、ナナがすこし寂しそうな表情をしたことに真っ先に気づいた景子が、残る二人にそう問いかけた。
自身は自宅の車がそれなりに高級車だということもあってか、二人が感じているような動揺は特に感じていない。
「せ、せやな……前みたいにずぶぬれいうわけでもないし……」
「…じゃね、じゃあ遠慮なく…」
その一言を引き金とするように、真紀子と多汰美も、まだすこし遠慮が見える表情が残っているが、笑ってそれに同意した。
「はい、ありがとうございます。 …じゃあ、どうぞ…」
「なんでナナちゃんがお礼いうねん」
「そうそう、ありがとうって私らの台詞じゃよ」
「あっ、その……すみません」
「いや、謝られても困るけど……」
ぎこちない乗車は、この後さらに5分くらいかかったという。



リムジンは校門周辺にいた人々の視線を一身に浴びつつ、七瀬家の方角へと進路をとる。
その道中、ナナは知り合いが後ろにいるという意識から、そして真紀子と多汰美の二人は、慣れない居心地に一切の言葉を発せず、時間だけが過ぎていき、目的地はどんどん近づいてくる。
そして、ある一点を超えたところで、その空気に耐えかねたか、景子が話題を切りだした。
「そういえばナナって、帰国子女ってやつなのよね…?」
「……そうなると思う、けど……それが?」
突然話しかけられて少しあわてつつも、何とかそれに答えるナナ。
景子は、ちゃんと反応してくれたことに少しほっとして、改めて口を開く。
「えっと……日本語上手だなーって思って」
「…ママが、日本人だから……いずれ日本で暮らすこともあるかもって言って、勉強してたから……」
「へぇ…じゃあもしかして、今は日本の親戚の家とかに泊めてもらってるん?」
「…ううん、ママがパパと結婚する前に住んでた家で……」
「え、それって……?」
「…うん、自立の勉強」
「それって…ナナちゃんちの教育方針ってやつ?」
「うん、パパも、私くらいのころから一人暮らしだったって」
また、4人とも黙り込み、静寂が訪れる。
それは七瀬家にたどり着くまでのほんの短い時間だったが、ずいぶんと長いように感じられた。




家の門の前に車を止めて、真紀子と多汰美とにわは降ろされた。
ナナはそのまま降りる事無く、自宅まで帰っていくかと思われたが…
「あの、やっぱり寄っていっても…いい?」
一歩遅れて自分も降りて、3人にそう呼びかける。
「え? ……それはぜひ歓迎したいところやけど…今日は八重ちゃん調子悪いし…」
「じゃね…お客さんきとる思たら、きっと八重ちゃん気つかうけぇ…」
「…そうですか……そうですよね。 でも、八重さんのこと、一目見るだけでも…ダメ、かな?」
語調こそ大人しいが、思い立ったが吉日、今日が無いと明日も無い、と言わんばかりの気配を纏っての一言。
(言い出すと聞かないタイプね……大人しくみえて頑固なのかも)
「ん? にわ、どうしたんや?」
「別に… 一目くらいなら、いいんじゃないかなって思っただけだけど」
「なんや、八重ちゃんにムリさせた無いから、にわは断る思とったのに」
「そりゃ、そう言いたいのもあるけど…七瀬もそこまでひどい風邪ってわけでもないでしょ? それに…」
景子はなんとなく、自分の意思を口に出来るその姿に見入っていた。
こんな初対面の相手にでさえ、思ったこと、やりたい事を真っ直ぐに口に出来るのが、うらやましいと。
「それに、なんや?」
「……やっぱりなんでもない…」
「? へんなにわちゃんじゃねー」
「……あのー、みなさんそんなところでどうしたんですか?」
多汰美のセリフが終わるか終わらないかの瞬間に、全員の耳にそんな声が聞こえてきた。
「ナナちゃん? なんか言うたか?」
「いえ、今のは……そっちから聞こえた気が……」
少し迷ったような顔をしながらも、ナナは右手の指で七瀬家の玄関の戸を差した。
全員が『ん?』とその指の先へと目を向けると……
「な、七瀬!!?」
「なんで出てきとるんや!? 風邪引いとるのに、寝てなあかんやろ!」
突然の親友の出現に驚きながらも、なんとかそう口にした真紀子。
対して八重は、ドテラを羽織って、風邪で少しとろんとした目のまま、少し微笑んでもう一度口を開いた。
「いえ、お水飲みに台所に行って、部屋に戻るところだったんですが…、玄関からみなさんの声がしたので……」
「ありがとう八重ちゃん。 でも私らにかまわんと部屋戻ってくれてもよかったんじゃよ?」
「はい、もう戻るつもりです。 ……けど、さっき誰と話していたんですか? 声が一人多かったような……それに後ろの車は…?」
四人の背後にある黒塗りの車に気付き、少し驚いたような表情も混じらせながら、そう尋ねる。
「あ、ああ、実は今日転校生が来てな? 八重ちゃんの事話したら会いたい言うて……でも八重ちゃん風邪やろ? どうしょうか話しとったんや」
「そうなんですか? お話しするくらいなら大丈夫ですよ …くしゅっ! ……うぅ、でもちょっと寒くなってきたので、中でいいですか?」
「そやな、ごめんな八重ちゃん。 先部屋戻っといて、私ら荷物置いたら行くから」
「はい、では…… くしゅっ!」
最後にまたくしゃみをひとつすると、元々熱っぽく赤くなっていた顔をさらに少し赤らめて、家の奥へと戻っていった。
「…なんか八重ちゃん、あんまり驚かんかったな?」
「じゃねぇ、こんな似とるのに、ちょっとは驚くと思ったのに…」
八重が玄関から見えなくなると、真紀子と多汰美の二人はそういいながら首かしげるが、残る景子とナナは少し呆れたような表情をそんな二人を向けていた。
「いや、ていうか…」
「……多分、みなさんの影に、私が隠れてしまってたから…」
「「…あ」」
横に並んで立っていた真紀子達3人が、その外側に立っていたナナの姿を玄関側からは完全に隠してしまっていた。
「……私、小さいから…」
微妙に3人から視線をそらし、そのままふっ、とどこか遠くを見るような目をしてポツリとそうつぶやく。
「な、ナナちゃん、はよいかんと八重ちゃんが待っとるで!」
「そ、そうじゃよ。 ほら私が案内するけぇ、ついてきて!」
「……否定はできないのよね…」
八重と見分けがつかないと言うことは、つまりナナの身長もどうみても中学生くらいということで……
慌てて話を逸らそうとする二人を見て、誰にも聞こえないように、ボソリと景子がそう呟いていた。
「戻っておいて。 帰る時間に、連絡するから」
そして二人の声を無視するかのようにナナが運転手に声をかけると、その直後には窓が閉まり、門前に停車していたリムジンは走り去っていった。
「……別に、そのくらいなら慣れてる」
そしてちらりと二人に視線を向けると、一言そう口にした。








「それで、その転校生さんは? さっきの車の中にいたんですか?」
景子とナナの予測どおり、八重自身はナナの姿を目にしていたわけではなかった。
一同は、外にでてたんだけど…という言葉を飲み込んで、笑ってその質問は受け流すことにした。
「それより七瀬、ホントに寝てないで大丈夫?」
「はい、お昼食べてからついさっきまでぐっすりだったので、朝よりは楽ですし、今は眠いわけでも無いので」
「そう、安心したわ」
八重の部屋で真紀子、多汰美、景子の3人が、布団の上でかけ布団で身体を包んで座る八重を囲むという形で、四人はそれぞれ床に座っていた。
ナナは八重の体調を改めて確認してから―ということで、ひとまず部屋の外で待機している。
「とりあえず大丈夫そうじゃね。 まきちー、もうナナちゃん呼んでええよね?」
「そやな。 ナナちゃーん、入ってええで」
呼びかけると、すっと廊下へのフスマが開いて、ナナが四人の前に姿を現す。
それはさも学校であった転校生の紹介と十二分にかぶる光景で、誰がとはいわないが心の中で苦笑していた。
「……あ」
―自分がいる―
何も知らない八重には、目の前に立つその人物は、自分以外の何者でもなかった。 
そして、突如広がった妙な空気がその場に立ちこめて、全員がなんとなく口を開けずにいる。
「…ド……」
「ド?」
と、数秒程経過したその直後、いきなり一文字口にしたかと思うと”ばふっ”と一度布団を持ち上げて、今度は頭まで隠して倒れ込んだ。
「や、八重ちゃん……?」
「……死ぬ時って、案外あっけないのかもしれませんね……」
「な、七瀬!!?」
「いきなり何言うとんねん!!?」
当然の如く慌てて布団の塊―もとい、布団の中で震える八重に呼びかける二人と、
「ていうか、『ド』ってなんじゃろ?」
冷静に一つ前に発した一言について考える多汰美。
そして、一人フスマの前からそんな状況を眺め、結論に達したもう一人。
「……ドッペルゲンガー」
「あー、自分を見ると死ぬゆうあれじゃね?」
「七瀬、それ違うから!!」







「もー、驚かさないでくださいよー」
数分かかって何とか落ちついて布団から顔を出した八重が、すこし膨れて四人に目を向けた。
「いや、あの反応は完全に想定外やったけど」
「驚かそうとは思ってたわけね」
「先に言われてても驚いたと思うよ?」
「それより七瀬、体調とか大丈夫?」
「はい、特には。 …ところで、ナナさんでしたっけ?」
「…何?」
すぐ横に座っているナナの顔を、じっと見つめる。
見つめられることには慣れていないのか、学校であったことと同様に、ナナはほんの少し顔を赤らめていた。
「本当……鏡を見てるみたいです」
「……私も…同じ気分」
「じゃねぇ、私らから見ても双子みたいじゃしね」
「これで同じ服やと見分けつかんやろなぁ」
「それじゃ学校だと、私達がどっちかわかりませんね」
笑ってそんな事を言う八重に、ナナはこくりと首を縦に動かした。
が、その直後に景子が一人だけ、そうでもないわよ? ときりだし、八重とナナの間に移動する。
そして、二人の目の辺りを指差して一言。
「七瀬と比べてちょっとつり目だし、瞳がちょっと青っぽいじゃない?」
「…確かに、人は目元で見分けられるってどっかで聞いた事あるけど、やっぱ一瞬迷うで?」
「そうかしら?」
「すぐ見分けられるの、にわちゃんだけだと思う…」
「そう? まあ、七瀬の事ならどんな遠くからでも見つける自身あるけどね」
「そのわりには、最初ナナちゃんと八重ちゃん間違えて抱きついとったよな?」
「うっ…そ、それは…」
「そんな事していたんですか」
「……あんなこと、始めて…だったのに……」
「アンタも変な誤解うみそうな言い方してんじゃないわよ!!」
ぽっと顔を赤らめて、もじもじとして思わせぶりな口調で爆弾を投下したナナと、必死にそれを否定する景子。
それを見て真紀子が、”意外とノリええんやな…”と思っていたのは別の話。


閑話休題


先ほどのやりとりで今朝の落ち込みがぶり返したか、部屋の隅っこでいじける景子を真紀子と多汰美に任せ、ナナが改めて八重と向かい合っていた。
「…あの、八重…さん?」
「うん? なんですか?」
「気味悪く……ない?」
そして、少し不安そうに顔を見つめながらそう尋ねると…八重は一瞬キョトンとした顔を見せたが、その次の瞬間にはやわらかな微笑みを浮かべて、一言。
「確かにちょっとおどろきましたけど、似ているってだけですから、そんなことありませんよ? …それに」
「それに?」
「ナナちゃんは、わたしの事を見て気味悪くないんですか?」
「……私も、驚いたけど…そんなことは…」
「でしょ? 私も同じ」
「…そっか。 ……あ」
「どうしたんですか?」
「…実は、さんとかつけるの慣れてなくて…八重って、呼んでもいい?」
「もちろん、いいですよ」
「…ありがとう……」
ふっ、とナナの顔に笑顔が差し込んだ。
八重のそれとは違うけれど、確かな優しさと喜びが込められた笑顔が。
八重と隅にいる3人は、その顔に理屈も無く安心した。この子とも、ずっと仲良くやっていけるだろう、と
「なんかラブラブじゃねぇ、あの二人」
「らぶっ!? そ、そんな……七瀬ぇ〜……」
「多汰美、それは微妙にまちがっとるで。 それとにわ、普通に考えて言葉どおりの意味なわけないやろ」
何気なく多汰美が口にした言葉がそれを後押ししてしまい、自分達を包んでいた雰囲気は一瞬にして崩壊した。
ちなみに、他の3人にも呼び捨てで呼ぶ了解はすでに学校の中でとっていた。




「…ところでみなさん、御夕飯はどうしますか?」
その後なんとか景子ももちなおし、八重を囲むように座り、5人で談笑していた。
そうしているうちに日も傾き、そろそろ夕刻かという時間になって、ふと時計を見た八重が全員に尋ねた
「夕ご飯って…おばさんはどうしたの?」
「昨日から法事で出かけとるんよ。 ちょっと遠いとこみたいじゃけぇ、帰るんは夜中になるって」
「さすがに八重ちゃん自身がこんな状態じゃなぁ……」
「私の料理も、……とても練習も足りないし、流石に病人に食べさせるわけにはいかないわね」
「人は炭では生きていけんけぇね…」
言っていて悲しくなってきたのか、3人のまわりにネガティブなオーラが漂い始めていた。
「……八重、朝とお昼はどうしてたの?」
その空気が継続するのは危険と察したのか、ナナが少しあわてて八重に話をふった。
「朝とお昼は、昨日の残り物を暖めて、インスタントのと一緒に食べましたけど……さすがにもう残って無いですね…」
「ごはんはいつも八重が?」
「はい、お母さんといっしょに…… 今も、私が作れれば一番なんですが…」
「なに言うとんねん、病人はゆっくりして、明日治ってから頑張ればええんや」
「そうよ、下手に動いて七瀬が風邪こじらせたら私……」
「皆もこう言ってるし……といいますか、私自身、こんな状態で包丁持つのは不安なので…」
打つ手無しね…と景子が呟くと、全員揃って”はぁ”と溜息をついた。
…が、それから数秒もしない間に、真紀子が頭上に古典的ひらめき表示の電球を浮かべ、ぽん、と手を打った
「そや、ナナちゃん確か一人暮らしやったよな?」
「……うん、今日からだけど」
「今日から?」
「今日は空港から直接学校に行ったから。 だから車も今日だけで、明日からは自転車で…」
「あーそうやったんか…」
「まきちー、話がそれとるよ」
「あ、そやった…… え〜っと、ご飯、どうするつもりやったんや?」
「…ご飯は自分で作るつもり………あ、もしかして……私?」
こくり、と無言で頷く真紀子。
ナナは声には出さずに、唇だけ”えーっと…”とでも言うように動かしながら、他の3人にも目を向けるが……
見えたものは、懇願に見えなくもない期待に満ちた瞳が6つ……真紀子のそれも加えれば、8つ、自分に向けられている光景だった。





「……オムライス…」
八重から借りたエプロンをつけたまま、5人分のオムライスを大きめのおぼんに乗せて持ってくる。
この時点で、少なくとも見た目はまともな料理であるということは全員の目に明らかだった。
「なんや、呼んでくれたら取りに行ったのに」
「味は保障できないけど」
「いやいや、これで十分じゃけぇ。 あたしらが作ったらもれなく炭になって帰ってくるけぇね」
「…由崎、聞いてて悲しくなるからそのへんで」
「……じゃね…」
「と、とりあえずいただきましょうか。 ナナちゃん、ありがとうございます」
「…ん」
ナナは一旦おぼんを床におくと、手渡しでスプーンとオムライス入りの皿を一人一人に渡して、最後に自分の分を手に取ると、ひとまずおぼんを部屋の隅に移す。
「……そういえば、ここで食べても?」
「かまいませんよ。 一人で食べるよりみんなで食べたほうが楽しいですし」
「そういうこと、だから、遠慮しなくてもいいわよ」
「なんでにわが仕切っとんねや」
「まあまあ。 それじゃあナナちゃん、いただきますね」
八重がそう言うと、ナナは一瞬間を開けて、コクリと頷いた。
そして、全員同時に皿の上のオムライスを口の中に―





……………………





「ぶわっ!!?」
「…はっ!? い、今何が!?」
ナナを除いた全員が、数秒間の硬直から解き放たれ、もはや絶叫に近い声を上げた。
そしてナナはというと、黙々と自分の皿の上のオムライスを食べている。
「ナナちゃん! なんやねんコレ!!?」
「い、一瞬気が遠くなったけぇ……」
四人の注目が浴びせられる中、もう一口スプーンで口に運ぶと、ふいっと横に視線をそらし、ぼそりと聞こえるか聞こえないかの小さな声で呟いた。
「……薬膳……良薬口に苦し」
「さっき自分でオムライス言うとったやろ!!?」
真紀子の一言から再び数秒間が空き、視線を元に戻さずに、また一言。
「良薬口に苦し?」
「苦いとかどうこう言う前にこんなん食えるか!!」
「ま、真紀子さん……」
「いや七瀬、これはいくら何でもはっきり言いたくもなるわよ……否定できないし」
「というか、ナナちゃんなんで平然と…」
多汰美の言う通り、ナナは自分の分を、顔色一つ変えずにすでに半分ほど平らげていた。
こうやって見ているといかにも普通のできのように見えてくるのだから不思議なもの。しかし、それでも四人はもう一口を口に運ぶ気は起こらなかった。
「まさか、人とは違う味覚の持ち主とか……」
「……違う……慣れただけ」
にわの一言に、ナナはふるふると首を横にふりながら答えた。
そして続けてもう一言。
「凄く不味い…けど、自分の作ったものだし……せめて自分だけでも食べてあげないと、たべものがかわいそう」
「うっ…」
「な、なんか耳が痛い……」
「…なんか今日の夢に食材の百鬼夜行がでてきそうじゃよ…」
耳を押さえる炭製造機1〜3号。
「それに、味の保障はできないって、最初に……」
「えっと……その、ナナちゃんごめんなさい、私……保障がどうこう言う問題じゃ無いと思います……」



結局、この日の夕食は4人そろってコンビニ弁当になり、とりあえず自分の一皿は平らげたナナはその光景をじっと眺めていた。
ちなみに、明日の朝食にと、もう一皿分をタッパーを借りて入れて、残る3皿を生ゴミに捨てて、手を合わせて『南無阿弥陀仏…』とナナが言っていたのは、一緒に皿を台所まで運んだ真紀子のみが知るお話。



そして、すっかり日も沈んで、星が瞬く時間帯。七瀬家の前には、再びリムジンが停車していた。
ナナは開いた車のドアの前に、四人はそれに向かい合うように立っている。
「八重…風邪なのに、見送らなくても……」
「いえ、今日は楽しかったので… それに、ナナちゃんの料理でびっくりして、風邪がどこかに飛んでっちゃったみたいなんですよ」
「いや八重ちゃん、それはどうかと」
「でもさっき体温はかったら確かに平熱じゃったけぇ」
「単に熱が下がっただけだと思うけど……そのくらいの威力あった気もするわね……」
「……練習はしてるけど……」
「…練習してもなかなか腕前ってあがらないものよね…」
その瞬間、ナナと景子の表情はシンクロしていた。
「で、でもお二人とも炭にならないだけ大丈夫かと…にわちゃんもちょっとずつうまくなってるし」
「八重ちゃん、それは私らにケンカ売ってるんか?」
「え、いや、その、そういうわけでは……」
「八重ちゃん、言葉のアヤでも言ってええことと悪い事があるんじゃよ?」
「ご、ごめんなさい! ごめんなさいー!!」
上から凄む真紀子と多汰美の表情は笑顔だったが、その威圧感は普通に怒るより高かったのは言うまでも無いことか。



「ぷっ…… あはははは!」
「わっ!?」
「な、ナナちゃん!?」
「あなたたち、凄いおもしろい。 ……こうやって笑うのも久しぶり」
まだくすくすと笑いながら、そんな事を口にする。
「…なんか、それ誉められてる気せーへんな…」
「誉めてるよ。 ……あなた達となら、私も、友達になれるかな?」
「ナナちゃん、何言ってるんですか!」
最後の一言は、ボソリと小さい声で呟いただけのもののはずだったが、その声も八重の耳には届いていた。
少しムッとした表情で、少し荒立てた声をナナに向ける。
「……え?」
「なれるかな? じゃなくて、私達、もう友達じゃないですか」
そして、優しい微笑みを浮かべて、その言葉を口にする。
ナナは、一瞬キョトンとした顔を見せるが、その言葉の意味を理解したその時、その口元は少し緩んでいた。
そして、改めて四人へと顔を向けて…八重とはまた違う微笑みを浮かべて、一言。
「ありがとう……みんな、明日からよろしく!」

 


続く


 


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