幻想郷の雪の姫
 





私は森の中を歩いていた。
その理由は焚き火をするための木の枝を拾うためだったのと、運が良ければ木の実も見つけられるかもと思ったから。
なんでこんな時代になってまでサバイバルまがいなことしなきゃいけないかと言うと、私達は町から町への旅人だから
……と言えばかっこいいと思うけど、どっちかというと放浪者に近いような気がする。
帰るところはあるんだけど、途中で宿に泊まれないのは……わりといつもの事だけど、問題だと思う。
「あの甲斐性なしの考え無し、もっとちゃんと稼げー!」
と、叫んでみても多分聞こえない。
……こんなに深い森だなんて思っていなかった。
……ただの薪拾いだっていうのに、調子にのりすぎたのかな……
いつの間にか奥の方まで来ていて、いつの間にか道が分からなくなっていた。
気が付けば、日も沈んじゃったのか、周りは真っ暗になっていた。
……いやだ、恐い、暗い………また一人……また……
「こんばんわ」
……え?
「こんばんわ」
言い直された。それでもあまりに突然で、すぐに反応できなかった。
「こんなに真っ暗なのに、ひとりでお散歩?」
女の子だ。多分、私と同い年かそのくらい。
金髪で黒いワンピース、頭に飾った赤いリボンがよく似合ってる。
私ほどじゃないけど、多分かわいいっていわれるタイプ。
「……あなただって一人じゃないですか。と言うかそのポーズ、何?」
とりあえず、気を紛らわせるために言い返してみた。
「人類は十進法を採用しましたって言ってるように見える?」
言ってる意味が分からないけど、両手を広げたポーズと言えば……最近ビデオで見たあれかなー
「……むしろタイタニックかな」
でも、なんだろう……子供みたいなその顔を見ていると、変な恐さが起こってくる。
「たいたにっく? ……うーん、なんでもいっか、おいしそうだし」
「!?」
違う! この子タイタニックっていう名前に対して言ったんじゃない。
……私に対して、『おいしそう』って言った!
ていうか、最初からタダの人間なんかじゃないと思ってた。
だって地面から浮いてるし、自分で空飛べるのは神様とか妖怪とかだけだし!!
「味見ー」
「……や、いやーーーっっ!!!」
弾かれたように走り出した。
真っ暗な世界、一人だけの私、後ろから追いかけてくる誰か ……これで雪が降っていれば、恐くて、ただ恐くて……もう動けなかったかもしれない。
「きゃあっ!!?」
足元に木の根っこ、盛大に転んでしまった。
……だめだ、もう。
私、こんなところで死んじゃうのかな。わけも分からない間に、化け物かもしれない女の子の手で。
「その格好、外の人間か。 こんな中途半端な場所でうろついてるなんて、紫の仕業かな?」
「え……えっ?」
また、別の女の子。
この子も、見た目は私と同い年くらい。腕から腰から鎖をぶら下げて、右手には変わった瓢箪を持っている。
……そして、頭に二本の角……こいつも人間じゃない。
「うーん、妖怪退治は人間の役目なんだけど……」
「うん? その人間はわたしのごはんだよ、横取りしたらゆるさないよ−」
角を持つ方に、リボンを着けた方が呼びかけた。
「許さなかったらどうする気?」
「妖怪は不味いけど、あなたも食べてやるー」
「あーはっはっはっはー! 私をお前等と同じ妖怪だと思うな!! そう思ってる時点で話にならないわ!!」
高笑い……そう、ただの高笑い。
でも、その瞬間の屈託の無い笑顔も、私にはなんだか恐かった。
「で、おしおき決定。 ここでコイツ助けるとあいつの思うつぼにさせられたみたいで気に食わないけど、私を妖怪扱いした馬鹿は……数名除いて例外なく返り討ちにあう!!」
「『数名』がいる時点で例外が出来てると思うんだけど…」
「うるさいなぁ、見捨ててもいいんだよ? そもそも、人間を助けたって私になーんの利点もないし。 というか、鬼が人間を助けるなんて前代未聞」
「…………」
何も言えなかった……少なくとも、この子は私を助けようとしてくれている。
それは多分、ただの気まぐれ。でも、今の私には他に縋れるものは無い。
……それがたとえ、人間じゃなくて、鬼だとしても。
「えーっと、あなたは妖怪じゃない?」
「そう、私は鬼」
「そーなのかー。 鬼は始めて、おいしいのかな?」
「少なくとも誰も食べた事は無いからわからないかな。 あんたに食えるとも思えないけど」
鬼の子は、懐から一枚のお札みたいなものを取り出した。
「良薬は口に苦し?」
リボンの化け物も、同じようなものを取り出す。
「それ絶対使い方違うって。 あ、人間、危ないから隠れてるかふせてたほうがいいよ」
あまり緊張感が感じられない口調でそう言われたけど、私はそれに従って五体投地―なんてあの馬鹿じゃあるまいしするわけもなく、近くにあった岩の影で大人しくふせておく事にした。
「いっくよー。 夜符『ナイトバード』!!」
リボンの方のお札が、暗い中でより黒く光って……その中から、数え切れない数の黒い鳥みたいな『闇』が飛び出してくる。
どうなるか気になって、岩陰から覗いていた私は、とっさに体を引っ込める。
「ふーん、弱そうだと思ってたけどやっぱりこの程度か」
……なんか、鬼の子はなんてことなさそうな声で平然としている。
なんとか隙を見て岩の向こう側を見てみると、持っている瓢箪の中身を飲みながら、お札を持った手を飛んでくる鳥の方に向けているだけだった。
……ううん、違う。 あの手は多分、何かをしてる。
だって、飛んでくる『闇』が、その手の前で次々と散っていくんだから……
「ふぃー……お酒も入ったし、サービスタイムはおしまい。 萃符『投擲の天岩戸』」
今度は鬼の子のお札が白く光った。
……かと思ったら、そのままリボンの方へと、飛んで来る鳥のすきまを避けながら飛びかかって、全身を思いっきり掴んでいた。
「うきゃああぁぁぁあぁあ!?」
腕を見てる方が気持ち悪くなるほどの大回転させて……うっ、なんか前に大損しかけた時の事思い出しそう……。
…それだけで済めば大した事ないのに、その上どこから飛んできたのか判らないたくさんの岩が振り回されているリボンの方にどんどんくっついていき、しまいには私の身長の3倍くらいはあるかもしれない大岩になっていた。
「あんたは光の神じゃなくて闇のザコだけど、岩に埋もれて、隠れてろー!!」
その状態のまま、はるか遠くの夜空へと投げ飛ばしてしまった。
……人間なら多分死んでるな、あれ。
「ふー、一件落着。 妖怪風情が私に勝てると思うなよー!」
「……あ、あのー」
たぶん飛んでったリボン妖怪に向けて叫んでるんだと思うけど、聞こえて無いと思う……じゃなくて、
「えっと……えっと……」
うまく口と舌が動いてくれない。色々聞きたい事があるのに、声が出てこない。
「えっと、じゃなくて、助けてもらったらまずお礼! まったく、最近の人間ってそんな礼儀も知らないのかなぁ」
「……ありがとう」
緊張感が台風の中に放り出されたろうそくの火みたいにかき消えた。
……我ながら変な例え方だなぁ、あいつとの旅が染み付いてるって言うか、なんだか自分が情けなくなってくる。
「どういたしまして。 ……で、あんたどこからこの森に入ってきたの?」
「え? えっと……わからない、近くだとは思うけど」
「近く? この辺り、歩いたんなら何日も木しかないけど? つまりどこまで歩いても森ってこと」
「えっ……?」
……そんなわけない、だって、私が歩いてたのはほんの……いや、どれだけの時間経ったかなんてわからないけど、少なくとも三時間は経ってないはずなのに……
「あーあ、やっぱり外の人間かー。 居合わせたみたいに私の近くに放り出されてるってことは、やっぱ紫の仕業かねぇ」
「……ちょっと、話が見えないんですけど……」
と言ってみると、にらんでるような目で私の方を見てきた。
「……妖怪を倒すのは人間の役目、人間を食うのが妖怪の役目……私の役目は、人間を攫うことなんだけど……」
「さ、攫う!?」
「……コイツ既に攫われてる人間だしなぁ、だったら、『攫い』返すのも役目の内、かな?」
……なんだか、自分に言い聞かせているような言い方だけど……もしかして、ちょっと都合いい流れ?
「とりあえず、せっかく助けたのが後から襲われても後味悪いし……あんた、名前は?」
名前を聞くほうが先に名乗る! と言うのは言わないでおく事にした。
下手な事言って見捨てられるのは、きっと命に関わるから。 私には、返らなきゃいけないトコロがあるから。
「草津ゆのは。 ……あなたは?」
「私は萃香、伊吹萃香。 あんたをある場所まで送り届ける役を押し付けられたかもしれない、哀れな鬼よ」






私は今、萃香の背中に乗せてもらって空を飛んでいた。
『すぺるかーど』とか言うお札の力で大人サイズに巨大化してる萃香……頭身というか、頭と体の比率そのままだから、たとえ身長が大人サイズでも、文字通り巨大化しただけの子供にしか見えない。要は不自然。
でもその背中は、私がおぶさるには十分な大きさだった。
……でも、やっぱり私が乗りたい背中は、拓也の背中が一番だよ……

そんな中で、萃香は今私がいるこの場所―いいえ、この世界について簡単に話してくれた。

……それはきっと、今の時代ではばかげた話。でも、私は認めなくてはいけない話
だって私は、元はそのばかげた話の体現者だから。否定すれば、今の私の全てが否定されるから。
「つまり、ここはあんたがいた世界と同じであって同じじゃない、つながっているようでつながっていない、幻想郷と呼ばれる世界よ」
神だの妖怪だの鬼だの悪魔だの、今の時代本気で信じてる人間なんて、子供とか昔から生きてるじいさんばあさんくらいしかいない。
そしてそれは当然の事。
「……うん、分かる。 妖怪とか鬼とかが、追い出された先の世界……」
細かい時期は覚えてないけど―私が神になって少し経ったくらいだったかな、すべての妖怪や鬼はどこか別の世界に閉め出されたって聞いた事がある。
それがこの幻想郷。 世界の名前や所在までは知らなかったけど……今、こうして私はその世界に立っている。
「残念、それはちょっと違う。 妖怪も鬼も追い出されたんじゃない、自分から出ていってやったんだ。外の人間なんて、不可思議を認めないバカしかいないから」
「……うん……人間って、馬鹿ばっかりです」
だからこそ、わたしの事も名前だけが残り、虚ろな神社で名前だけが祭られた。
神がなんたるかを判っていない、馬鹿で愚鈍な人間達によって。
「ま、鬼はこちら側の人間にさえ見切りをつけちゃったんだけどね。 だから、今の幻想郷には私以外の鬼はいない」
「……え? じゃあ、どこに……」
「鬼の国。 幻想郷の隅っこの、鬼だけが住む国。 鬼はもうずっとそこで暮らしている、この幻想郷ですら、存在を忘れてしまうほどの時間を、ね」
「……あっ……」
……そうか、初めて会ったのに、鬼なんて恐いはずなのに……
それでも、私が萃香に親近感を感じていたのは、私と同じだからなんだ。
「ん? どしたの?」
長い……長ーい間、人の世界から切り離され、そして忘れられた、鬼。
人の外の存在だから、一度人の世を離れれば全て忘れられてしまう、神。
そして、長い時間の後に人の世界に戻る事が出来た、神だった私と鬼の萃香。
絶対に相容れない二つだけど、人の世に戻った理由もきっと違うけど、私と彼女は、きっと同じ。
「……なんでもありません」
「嘘、なにか考えてる。 ……ま、嘘は人間の特権ってね」
「鬼は嘘をつかないの? 人間を騙したりして攫っていくのが鬼じゃないの?」
「それは人間が身勝手に広めた嘘。 本当の嘘つきは人間だけだよ。 鬼は堂々と人と戦い、勝てばその人間を攫う」
「ふーん」
嘘つき、か。 そういえば拓也と兄妹ごっこでゆのはな町のみんなを騙していたよね。
……やっぱり、この子とは相容れないのかも。
「ま、わたしは楽しければいいんだけどね。 人攫いなんて二の次二の次」
……やっぱり、よくわからないかもしれない。
きっと萃香が鬼の存在を忘れたっていうこの幻想郷にいられるのは、本来の鬼の役目らしい人攫いをどうでもいいみたいに言ってしまうこの性格があるからなのかも。
「あ、見えた見えた。 とりあえずあそこにいれば襲われることは無いと思うよー」
そう言って私達が降りていったのは、鳥居に『博麗神社』と書かれた少し寂れた神社だった。






「で、わざわざこんな時間に持ち込んできたと」
神社に入って、そこの主らしい人から真っ先に出た言葉が、人をモノ扱いしたような一言だった。
「しょーがないじゃない、他に迷子を放り込んでおけるところなんてあるわけないし」
「それもそうね、その辺だとあっという間に妖怪のエサだわ」
頭にはさっきの妖怪のものよりも大きな白いレースのついた赤いリボン。そして微妙にセーラー服っぽい気がしなくもない巫女服らしい服装、こっちも紅白でおめでたい感じで、いかにもやる気の無さそうな顔がかえって印象的。
でも……なんとなく、ただの人間じゃないっていうのは判る気がした。
「まったく、こういうのは私じゃなくて霊夢の役目なのに」
「全部まとめて面倒みきれるわけないでしょ? 特に紫の仕業っていうんならなおさら」
「あ、あのー、ちょっといいですか」
さっきからずっと気になる事があった。
二人は無言で私の方に顔を向けてくる、表情は相変わらず。
「紫って、誰ですか?」
おもいっきり嫌そうな顔をされた。
霊夢はそうでもないけど、特に萃香の方に。
「ゆのは、だっけ? あなたお茶淹れられる?」
「……え? まあ、お茶くらいなら……」
「台所あっち、淹れて来てくれないかしら」
……なんていうか、この霊夢っていう人の全てを表しているような一言な気がした。
この人にとっては、初対面とか顔なじみとか関係ないんだろう、きっと。


「けっこう美味しいわね、どこぞのメイド長程じゃないけど」
「へーめずらしいね、あのメイドが緑茶淹れるなんて」
……なーんか誉められてるのかそうでないのかよくわかんなくなってくる会話。
それに私の質問なんて完全に受け流されてる気がする。
「前にレミリアが飲んでみたいってうちに押し掛けてきたのよね」
「ああ、それで」
「ところで、冷めるわよ?」
「……あ、私?」
「他に誰がいるっていうのよ」
……まあ、確かにそうなんだけど。
私は一口お茶を口に入れて、改めて二人に目を向けた。
「それで、紫って誰ですか?」
「……うーん、やっぱり答えるべきなのかなー」
相変わらず、嫌そうな顔をされる。
……あまり歓迎される人(?)じゃないみたい。
「あんたが説明なさいよ、私より付き会い長いでしょ?」
「……そりゃーまあそうだけど……」
うーん、とひとしきりうなった後、萃香はその紫という存在について話し始めた。
「簡単に言うと、スキマ妖怪。 結界―じゃなくて境界を自由に操れて、存在自体がインチキで、初心者はまずまともに相手してられないかな」
「……は、はあ……」
……つまり、私にとっての小娘みたいな関係で、萃香は苦手と。
とりあえず、それだけはひしひしと感じる程に明確だった。
「多分博麗大結界に穴開けて、ゆのはをこっちに引っ張ってきたのもあいつの仕業」
「でも、紫はあまり無意味すぎる糸引きはやらないと思うけど……」
「そうかなー…」
「たぶん、ね。 あれはあれで外との約束事は守ってるみたいだし、食料調達か、何か別に意味があるかのどっちかよ。 どっちにしたって、果てしなく面倒だけど」
なんだかんだと言いながらも会話に加わってくる霊夢だったけど、やっぱりめんどくさそうな雰囲気は満々。
多分、この曖昧な言動と態度はこの人の特徴なんだろう、きっと。
「じ、じゃあ……私、帰れるの?」
「そればっかりはなんとも言えないわねぇ。 私は結界の修復は出来ても穴開けるコトはできないし」
「つまり、紫の行動を待つしかないってこと」
「でもあいつ、いてほしくない時にいないのに、いてほしい時にいないのよねぇ」
「それってつまりいつもいないって事じゃ……」
「つまりアイツは、自分の興味以外では滅多に動かないってこと」
……なんだか、全ての希望が断ち切られたような気になってしまった。
これじゃあ、拓也の所に帰れない。
「そ、そんなのダメ!! 私、私……絶対に帰らないといけないのに!!」
拓也の事だから、きっとわたしの事を探してる、それこそ、見つかるまで延々と森の中を……
「なこと言われても……」
「あら、いてほしい時なんてあるのかしら?」
「わっ!?」
「ありゃ、呼んで出てくるなんて珍しい」
急に空中に穴のようなものが開いて、そのなかから女の人が出てきた。
呼んで出てきた……? まさか、この人…いや、妖怪が紫?
「ここで待ってれば来ると思ってたからね」
……この人、なんだか近寄りづらい。
でも恐いとかそういうものは全く感じなくて……なんていうか、纏ってる雰囲気が、とてつもなく胡散臭い。
話しかけていいものかどうか迷うけど、この人以外どうしようもできないらしいし……
「自分で用があるなら自分の所に呼べばよかったのに」
「あら、それじゃ面白く無いじゃない」
「やっぱり面白半分じゃん……」
「半分じゃなくて9割よ」
がくり、と萃香は肩と頭を落とした。この人に振り回されるのは、多分いつもの事なんだろうな。
……拓也に振り回される私とちょっと被って見える。
「……紫……さん? 私を元の場所に帰してくれませんか」
でも、そんなこと気にしてられない。
一刻でも早く戻って、拓也に会いたい。安心させてあげたい。
「タダで帰したんじゃ、呼んだ意味が無いじゃない? あなたは変わった境界をお持ちのようだし」
「……どうすればいいんですか……?」
「神と人の境界を一度は越えた人間として、もう一度神に戻りたいと思わないかしら?」
「えっ……!?」
「私でも神の境界を越えることは難しい、でも、その相手が一度越えた事のある者ならば容易にその境界を弄る事ができる」
……私が、また神様に?
「一度自分の手で神を生み出してみたいと思っていたのよ。 あなたならその要素は十分に持っているわ、元々神だったんだから、当然よね」
「…………」
……神様だった私は、本当に何でも出来た。
それこそ、他人に単純な嘘を信じ込ませたり……その気になれば人を生き返らせることすらも。
……でも、それはすごく寂しい世界だった。一度祠に還ってしまえば、みんな私の事なんて忘れてしまう。
それが、人の世の輪から外れてしまった、神と言う存在の常。
なんでもできる反面、なんにもできないのが、神様。
「……ううん、確かに力は惜しいと思うけど、神様に戻りたいなんて思いません」
それに、今の私には、そんな力はどうでもいい。大好きな人が近くにいてくれるから。
「それに、神様にもどっちゃったら……こっちの世界から出るわけにはいかなくなっちゃうと思うし」
私は、もうゆのはな郷の神である必要は無いから、神様に戻ってもあの土地に縛られることは無いと思う。
でも、きっと今度はこの幻想郷でしか生きられない存在になってしまう。
だって、外の世界では、もう神様はいらないから。 神様は、存在できないから。
「あら、よくわかってるみたいね、残念」
「……紫さんは、私に答えて欲しかったんですよね?」
「そーかな? 私にはタダの興味本意だと思うけど」
「萃香、あなたもどこかに飛ばしてあげようかしら?」
「私はどこに飛ばされても戻ってくる自信あるよ?」
……雰囲気は恐いけど、あまり迫力は無いにらみ合いだった。お互い本気じゃないのはよくわかる。
「……えーっと、だから、元の場所に帰してください。 早くしないと、拓也が……私を探し続けて死んじゃうよ」
「あらあら、素直なのは嫌いじゃないわ。ウチの藍ももうちょっと素直になればねえ、今度素直と意地の境界を弄ってみようかしら」
「そんなことするから余計に頑なになるんだと思うんだけど」
「ふふ、そんな事しなくてもウチの藍はかわいいわよ。からかうと特に」
……その藍って人の事がものすごく可愛そうに感じてきた。
多分、萃香以上に紫と親しい間柄で、それ以上に遊ばれ続けてるんだ、きっと。
「じゃあ、望みどおりあなたは元の場所に帰してあげるわ。 この中を真っ直ぐに歩いて行けばその男の方と会えるでしょう」
そう言って、さっきと同じような空間の隙間を作ってくれた。
……正直胡散臭くて、恐くて入りにくいんだけど……でも、私は早く帰ってあげないといけないから……
「……紫さん、最後に一つ聞いていいですか?」
「あら、そんなに長くスキマを開けてあげないわよ?」
「……私と萃香を真っ先に会わせたのは、偶然? お遊び? それとも理由が?」
ちらりと萃香の方に目を向けると、『お遊びに決まってる』と言いきるかのような目で私と紫を睨みつけていた。
でも、私には萃香と会ったのは偶然じゃないように感じてる。
……だって、私と萃香は全然違うけど、どこかで一緒だから。
「それは、お好きなように考えて。 さっさと行かないと閉めるわよ、あんまり長い間開けてると霊夢が恐いから」
「ちゃんと修復までしてくれるなら別に何も言わないわよ」
「あはは…… それじゃ、萃香、霊夢、紫さん、ありがとうございました」
「お礼言われる事したかしら?」
「ま、もー会うことは無いだろうけどね」
「連れ去られてお礼言うなんて、変わった子ねぇ」


……私は、神様との境界を捨ててしまったから、きっともう二度と幻想郷に来る事はできない。
まあ、ほんの数時間程度の旅行で、別に感慨も何もないし、そんな事はどうでもいいんだけど。
でも、その数時間で、どこかで迷っていた自分がいなくなったような気がする。
神様じゃなくなったから、ゆのはな町に帰れないなんて、思ってたけど……なんだかそれも馬鹿みたいに思えてきた。
……帰ったら、おもいっきり拓也の腕で泣いてしまおう。
そして、かつて自分が神様だった、ゆのはな町へ帰りたいって言おう。

 


後書き


幻想郷の雪の姫、こんなのを書いた理由は、このHPならではの何かを書けないかなと思ったのが最初です。
やはり東方とゆのはなを同時にメインに立たせているからには一度二つの世界を混ぜたようなモノを書いてみたかったんですよね
……まぁ、かなり強引な展開の連続ですし、キャラクターがらしくない言動ばっかで違和感ありまくりな気がするんですが(汗

ちなみに、ここから『輝く今』に続く、と言うわけではありません。
続くと考えても面白いとは思うので、そのあたりは読者の皆さんの判断にお任せします。

それでは、また次のSSでー。

 


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