―12月17日― (前編)
 


う…
「拓也」
ここは…
「拓也!」
俺は愛車のクワゥテモック2号で…
「たーくーやー!! 生きてるんでしょ!? 目を開けて!!」
聞き覚えのある声だ。3年も前から、ずっと一緒に過ごしてきた…いつも隣にいてくれた…
「…うっ…」
「拓也!」
がば!
そんな音が聞こえてきそうな勢いで、目が覚めたばかりで意識のはっきりしない俺の身体を、誰かが強く抱き締めてくる
…って
「いっ…ぐぉあ!?」
い、痛い!?  前にどっかで味わったほどでは無いが全身が痛い!!
「拓也ぁ、死んだかと思ったじゃない。 呼んだらさっさと返事しなさいよぉ…」
今にも泣きそうな声が聞こえてくるが、そんな事より痛い。 なんか抱きしめる強さもどんどん強くなってくし、それに合わせるかのように全身に五寸釘を打ち込まれるような痛みが!
「ゆ、ゆのはっ 痛い! 死ぬ!!?」
「へ? …あ」
俺を抱き締めていたらしいゆのはから力が抜けた、というより大慌てで離された。
「ごふっ!」
自分で身体を支える気力すらなかった俺は、ゆのはが手を離すと同時に背中から地面に倒れこんだ。
ちくしょう、地面に背中がぶつかっただけでも強烈に痛みが走りやがる。
「た、たくやっ 大丈夫!?」
「だ、大丈夫だ…が、動けそうにない」
つーか身体を動かそうとするとそこから高圧電流を流されてるみたいに全身に痛みが広がる。
これは全身の骨にひびがでもはいってるか、下手すりゃ複雑骨折でもしてるかもしれん。
「確かに重症じゃのう、以前のように頭蓋は粉砕、脳漿は露出し、手足の付き様は人とは思えぬ有様と言うわけでは無いが、下手に動かすと命に関わりそうな有様じゃ」
「そ、そうなのか…ゆのは、すまない…」
「か、勝手にあきらめるな! 拓也には私を守るっていう大事な役目があるんだから、こんなところで死んじゃだめー!」
ああ、わかっているさ…けど、マジで動けない。 なんか雪も降ってきたみたいだし、このまま雪に埋まって無様な姿のまま冷凍保存がいいところだ…
「…こりゃ、勝手に死なれては困るんじゃが…… うーん、やっぱり死にかけの人間に前口上はやめたほうがいいみたいですね…」
「だからあきらめるなー! 拓也はどんな手を使ってでも生きるのー!! い、いま救急車呼んでくるから!」
…ああ、これはマジでやばいな。まるでゆのはだけじゃなくて、神様だった頃のゆのはが目の前にいるみたいな幻聴が聞こえる。
「…幻聴じゃないんですけどー …いや、幻聴ではないぞよ? ところでゆのは、さっきから意図的にわらわを無視してるように感じるのは気のせいかの?」
「……ぎく!?」
走り出そうとしたゆのはが、石像のように停止した。
「確か今『どんな手を使ってでも』と言いましたね。我が半身なら、自分の言葉には責任をもつことじゃ…というか、今から助けを呼ぶよりわらわにすがった方が確実じゃぞ? それとも、結局あなたは拓也よりお金の方が大事なんですか?」
「そんなわけない!」
おお、即答だ。
くぅ、うれしい事言ってくれるじゃないか。 いま身体が動いたならば思いっきり抱きしめてやったものを。
「それならば、決まりじゃな」
幻聴? がそう言った瞬間、壊れた祠の前に淡い光が集まり、人の形になった。
「天地万物を構成せし、八百万の御霊よ!! われ、ゆのはな郷の守護神、ゆのは姫の命によりて、これなる者の魂の器を元の姿に!」
その人の形から、発せられた光が俺の身体を包みこんでいく。
…あ、あたたかい…身体も、なんだか軽くなっていく………






…俺はなにか固いものの上で寝ていた。背中の感触からすると土らしい。
いくら野宿とはいえ土の上に直に寝るなよ、俺。
…ゆのははまぁ寝袋使い忘れることなんてなさそうだから心配はなさそうだが…それでも宿がなかった時は寝る前も起きた後もぐちぐちうるさいんだよなぁ。
でも、そんな事言いつつも、自分が楽しそうな顔してるのは多分気付いてない。
しかし妙な夢だったな。ゆのはのとなりに昔の―神様だったころのゆのはが立ってた夢だったが…そういえばゆのはと最初にあった時もこんなふうに土の上で目を覚ました気がする。
…それにしても、なんだこのデジャヴは。夢に神様のころのゆのはが出てきた事といい、直前に激痛が体中を走っていた事といい…今のゆのはもでてきていた事以外、何から何まであの時と同じだ。
「…まさか…」
俺は妙な不安に駆られながらも立ち上がって、状況を把握すべく当たりを見回した。
目の前には祠。
チョット離れたところに、白いギターケースとナップザック、そしてトランペット。
そして俺の周りには何かキラキラと輝く物…はなかった。 視線をまた祠の方に向けると、祠よりすこし向こうのところでクワウテモック2号が、満身創痍ながらもなんとかバイクの形を保ったまま倒れていた……多分動かしたらそのまま分解するか、それ以前にうごかないだろうが。
ゆのはが乗っていたはずのサイドカーは少し離れたところで、クワウテモック本体程では無いがボロボロの状態で倒れていた。どうやらなんかのショックで連結が切れたらしい。
「あ…」
そうだ、俺は…いや、俺達は…



「白い花が こぼれるように 雪が舞い降りてる〜」
などと、俺が運転するクワウテモック2号に取り付けたサイドカーの中でゆのはが歌っていた。
最近見たアニメの主題歌で『冬だより』という曲らしい。 歌だけ聞いた感じ、その中身は冬を舞台にした、ほのぼのしてちょっとホロリな恋愛アニメってところだろう。
こういうほのぼのした歌はわりと好きだが…しかし、爆走するバイクの上で歌うような歌じゃない気もするな。
しかしまぁ、お兄さんそんな事は気にしないぞ。 なんといってもこのバイクの感触、ゆのはの目もあって3年かかってもなかなか俺用の金がたまらない中で買った中古も中古の安物だが、やっぱこの風を切る感覚はサイコーっすね♪
ゆのはの歌にはギターでも弾いて伴奏してやりたいところだが、バイクを転がしながらギターを弾くほど、俺は器用でも命知らずでもなかった。
「窓を開けると 小さな神様が 微笑みかける様に見えた」
で、なんだかんだ言って反対してたゆのはもサイドカーに乗って楽しそうだ。ホントは俺の背中にでもつかまってほしいところだが、乗る時間が長くなると正直危ない。ちょっと残念だがゆのはの安全を考えたらコレが一番だ。
「冬が始まったよ コートの襟を立てながら ココアを飲んでいるよ」
しかし、今走っている場所は一度走った事のある道だが、何度走っても同じ事が頭に浮かんでくる。
こんなトコに国道作って役に立つのかね?
まぁそんなことはともかく、2度目に通っても気持ちいいくらいの直線道路。
信号を気にする必要も無い、対向車を気にする必要も無い、GO GO US WAY!
と、言いたいところだがあいにく事故の前例があるので、これ以上アクセルを入れて加速するのはやめておく。 何を隠そう自分の事故だし。
と、いい気分で注意しながら前を見たら。
「にゃあ」
ま、また白ネコ!? というかなんだこのデジャヴーは!?
俺はとっさにブレーキを踏んだ!!  だが、寒さの為か少し凍った路面は勢いを殺しきれない!!
「あちょぉぉぉっっっっっ!!」
「きゃああぁあぁあ!!?」
ハンドルを右へ切った!!
「うわぁぁぁぁっっ」
「いやぁぁぁっ!」
………………
あー。そういえばクワゥテモックってのは『落ちるワシ』って意味だったよなぁ…って、前の時にも同じ事考えてたのになんで同じ名前つけてんだ俺は。

でも……
なぜ俺のバイクと祠だけ壊れてるんだ? 確かこの祠にはもう神様はいないはずだし、元神のゆのはも今は力は使えないはずだが…
「天地万物を構成せし、八百万の御霊よ!! われ、ゆのはな郷の守護神、ゆのは姫の命によりて、これなる鉄の駿馬を元の姿に!」
「おお!! こ、これは!?」
俺の目の前でボロボロだった愛車が再構成されていく!!
折れていた部品は真っ直ぐに戻り、崩れていた破片も元におさまっていく。
そして最後には、新品同様の姿になっていた。そう、中古で買ったものが新品同様に生まれ変わったのだ!
「す、すげぇ…」
「うぅ、出費がかさむ〜… でも買って数日でおしゃかも悔しいし乗ってると結構楽しいし、それに『ばいくで背中にぎゅっと抱きつく恋人』もまだやってないし…」
声の方を見ると、微妙な表情で頭を抱えるゆのは。 ううむそうだったのか。よし、今度乗る時は背中につかまらせてやる事にしよう。
それにしてもゆのはって『恋人』らしい事をしたがるんだよな。テレビでやってる微妙に曲がった知識でも容赦なく。まぁうれしい事はうれしいが人目ははばかってほしい時もあるんですよボクハ。
「…草津拓也、お主の辞書には成長と言う言葉は無いのか?」
「うーん、俺は20越えた時点で成長はあまり期待できないと思うのだが」
そう言って目を向けた先―祠のてっぺんに奇妙なカッコした女の子が1人……気のせいか? なんかどっかで見た事あるような顔をしているが…
ふと、ゆのはに目を向ける。 また、女の子に、またゆのはに、また女の子…
「………って、ゆのはが二人!?」
「あれ? なんで拓也憶えてな…………………あー、うん、そういうことか」
「………まぁ………人間の拓也は憶えていなくても不思議じゃないですし」
「いや、拓也の事だから素で忘れてる可能性も……」
「確かにその可能性も捨てきれないですけど…でもとりあえず原因はこっちの方ということにしておいてあげましょう」
「うーん…まぁ仮にも私の恋人だし、馬鹿なのは分かってるけど認めると本当に馬鹿になるから、私もそういう事にしておきます」
いや、なんか状況がよくわからんが二人で納得しないでほしいな。
しかし二人のゆのは、なんかどっかで見た事あるような気が…
「あ、なんか思い出しそうな顔してる」
「もう一押ししてみますか?」
うーん、そう…たしか雪の地平線だ、それと真夜中。
「え〜っと、お賽銭110700円?」
「それは…微妙? あの時幾ら払ったかなんて拓也憶えて無いと思うし」
…で、ゆのはの傷と血が赤くて足元の雪も染まってたよなぁ。
「あ、肩の傷痕を見せれば…」
「…いくらなんでも屋外で服は脱ぎたくないです」
うーん、それから…
「ですよねぇ、それに貴方達だとそれ以上の事を毎日のように見て……」
「わわっ! い、幾らなんでもま、毎日は…」
「なるほど、毎日では無い、と」
「メモするなー!」
うーん……なんか変な方向に話が動いてるな。
「はぁ、我が半身ながら情けないです。 元・神とあろう者がこんな助平な子に育ってしまうなんて…」
「ち、ちーがーうー!! あれは全部拓也が…そうっ! 拓也がエッチなんです!! 拓也が毎日のように迫ってくるから〜!!!」
「…あなたと私が完全に別れる前の記憶は私の中にもあるんですよ? それによると3回とも貴方の方から…」
「キーーーー! そんな昔の事はカンケーありません!!」
「いや、今でもどっちかというとゆのはから…」
「黙れー!」
怒り狂って真っ赤になったゆのはのニーキックが無防備な俺の腹にクリティカルヒット!
「ごふぅ!」
ゆのはの体重はわりと軽い。軽いんだが、それでも全体重の乗った蹴りがみぞおちに直撃して平然と立っていられるような能力が俺にあるはずもなく、なすすべなく地に落ちるしかなかった。
「…私の事を思い出すのはどうなったんですか」
「話そらしたヤツが言うなー!!」
…なんかふたりのゆのはが揉めてるなぁ。
そういえばなんか奇妙なカッコした方はホンモノよりちょっと背が低い気がするな、目つきもなんか違うし。ちょうど3年前に出合った頃と同じくらいで…よく見れば服もあの頃と同じだな。
「……まぁ、元々人間の外の存在である神様を人間が忘れるのは必然なんですが、記憶の奥の奥に隠れてしまうだけで完全に記憶から消えるわけでも無いんですよね。現に以前のみつ枝も思い出していたような気配はしていましたし」
「だから話をそらすな!」
「人間になったゆのはが私の事を憶えていたのは、元々私とひとつだったからだとして…拓也が神様だった貴方の事を覚えていたのは貴方と拓也が霊的につながっていたから…だとすれば…」
…人間になったゆのはとあのニセモノが元々は一つ? まさか、ここにいるのはあの時ゆのはと一緒になったはずの『死』か? そういえばあの半分閉じたみたいな目つき、そんな感じだった気が…
「…これならもう少しお金があれば記憶を強引に引き戻す事も可能ですが?」
「うー…もう私のへそくり―もとい、遊行費にも余裕が…」
いや…違う、なにか重要な部分が抜けている。 ゆのはと『死』が一つになったあと、もっと重要な何かがあったはずだ。
そう、真夜中の雪原…流れる血…ゆのはの傷…そして…
「そうだ!!」
「「わっ!?」」
「おまえはゆのはの『死』だ!」
「確かにそうでしたが、今は違います」
「悪い、戻りすぎた。おまえはゆのはの半身で、ゆのはの代わりに神になったゆのは姫だな!?」
「正解。 ………あと少し思い出さなかったらもうちょっとお金が入るところでしたのに…」
「拓也ぁ、思い出してくれてありがとう〜」
…俺が考え込んでいる間に二人の間に何かがあったようだ。
「まぁ、それはともかく…全部思い出したのならば、自分がすべき事は判っていますね?」
「そうだな、命を助けてもらったお礼にこいつで一曲…」
俺は意気込んでトランペットのまーべらすに駆け寄り取り出すと、軽く口を当てて…
「その楽器はうるさいからやめろといってるだろーがー!!」
「…だ〜か〜らぁ〜…… はぁ、もう、本当に成長していませんねあなたは」
「うーむ、分からん奴らだな。 トランペットとギターは男のロマンだというのに」
「私は男じゃないのでわかりません」
「横に同じです」
うーむ、考えて見ればそれもそうだが残念だ。それと確かにボケていてもしかたないしな
俺は名残惜しみながらまーべらすをしまいこんで、改めてゆのは姫と向き合った。
「で、今回は幾らなんだ? やっぱり20万か?」
「おや、急にまじめになりましたね? まぁこちらとしてもそうしてくれたほうがありがたいですが」
「…俺を何だと思ってる?」
「「馬鹿」」
…くぅ、ダブルでステレオにはっきり言われるとお兄さん悲しくなっちゃうじゃないか。
「まぁ、それはそうと…かかった霊力、必要な霊力がこれこれで…拓也の事だからどうせ上乗せは期待できないですからあきらめるとして…」
どこからともなくとりだした電卓で計算を始める神様。
それにしても正直に言うなぁ、確かに上乗せなんてされても払えるとは思えんが。
「ぴっぽっぱっと。 そうですね、とりあえず25万もあれば十分かと」
「ち、ちょっとちょっと! 拓也は前よりけがマシだったのになんで高くなってんのよ!?」
…弐百参拾五萬五千七百三十九円を要求したあなたに言われたくは無い気がするんですが…とは口が避けても言えない感じだなぁ。
「…今回はあなたを助けた費用も含まれてるんです!」
「へ?」
「…激突する直前、とっさにあなただけ事故の衝撃から守ってあげました。 私の半身である貴方が死んでしまっては、私もこの現世に残るのは難しいですから」
「うっ…」
「って、それができるならなんで俺も一緒に守ってくれなかった?」
「とっさ過ぎたので1人分の結界をつくるので精一杯だったんです。 結果的に命は助かったんだから文句は言わないでほしいです」
ううむ、まぁ確かにそれはそうだが。なんだかしっくりこない気がしなくもないような…
いや、命が助かっただけでも奇跡だ、しかも2度目! 2度も死にかけておいてまだ生きてるなんて俺はついてるぞ!
「落ち込んだり考え込んだり笑い出したり忙しい人ですね。いまさらですが」
「あ、頭痛くなってきました…」
「まあ、立ち直ったのならいいです。 さて、尋ねますが今貴方は25万円もっているのですか?」
「持ってない」
「…でしょうね。 まぁ一括返済は期待していませんし… で、実際どの程度なんですか?」
「え〜っとだな…」
ナップサックの中から財布を取り出し中身を確認。500円玉1枚と100円玉3枚、50円玉が2枚で10円玉が6枚、一円玉が3枚。
「俺の虎の子、全部で963円だな」
「……なんか前より少なくありません? 12円程ですが」
「うーん、クワゥモテック2号を買ったばかりだからなぁ。 それに大体ほとんどが宿代と食費で消えるわけだし」
まあ二人分の生活費を1人のバイトで稼ぐこと自体大変だしなぁ。 人間になってからゆのはの食う量は普通―よりは少し多いが気にしない事にして―になってるが。
「…あー、もう予想通りと言いますかなんと言いますか…… でもとりあえず…」
どこからともなく賽銭箱型の貯金箱が現れた。
「おお、懐かしいぞどこでも賽銭箱!」
本当に、この光景を見るのも3年ぶりだ。
「へんな名前をつけないでください。 …神の名において、奉納!」

―所持金 0000000円―
―お賽銭 0000963円―

「…天地万物を以下略! 祠を元の姿に!」

―お賽銭 0000000円―

「すげぇ、戻った!」
「…わざと言ってるんですか?」
「いや、とりあえず言っとこうかと」
まぁ、今回も直ったように見せかける幻なんだよなぁ。しかし前回より12円少なくても出来るものなのか? 使う金銭の基準が分からん。
「しかし、本当に困ったものですねぇ… 今すぐ25万円作れないんですか?」
そんな方法があるなら俺の方が知りたい。
「そんな方法があるなら私の方が知りたいです」
ゆのはも同意。しかしまた変なデジャヴーだな…以前にも同じような会話があったような気がするが…そう、この後ゆのはが出してきた提案は…
「どうせその楽器は安物で売っても二束三文、となると別の方法は…」
確かにそうだが傷つくぜ。
「……あ、そうです!」
嫌な予感
「サラ金という手がありました! 今回はそれほど大規模な治療は施していませんからこの町からも出られるはずですし! ただし自分で稼いだお金じゃないので250万必要になりますけどね」
予感的中。だからあれは便利というより…というかまた10倍ですか!?
「ダ・メ・で・す!!」
「へ?」
意外な方向から助けが飛んできた。
…ゆのはだ。3年前に自分で言った事をそのまま言われただけなのだが、まぁこの3年でそういった知識も増えたってことか。微妙に間違った知識も増えてるけど。
「ダメですダメですぜーったいダメです!! あんな危険なものに手を出したら私も拓也も永遠に借金地獄です!!」
「あれ、すぐにでも100万くらいは作れるのでは?」
「世の中そんなに甘くなかったです……目先の金額に囚われて破滅する人間は大抵サラ金に手を出してます…」
「…なんだかよくわかりませんが、『タダより高いものは無い』というものですか?」
うーむ、あのゆのはをここまでおびえさせるとは、サラ金恐るべし。
ゆのは姫もゆのはの勢いに押されてちょっとたじたじだ。この調子だとサラ金には手を出さずにすみそうだ。やっぱ日ごろの心がけだよなぁ、ありがとう神様。
「うーん…ゆのはがそこまで嫌がるのなら、なにか裏があるということですか。 しかたありませんね…」
「よくやったゆのは!」
「拓也ー、私達路頭に迷わなくていいんだねっ」
がば、とかつての『草津兄妹物語』ばりに抱き合う俺達。
「…やっぱ取りにいかせましょうか?」
「いえ、ぜひ働いて25万返させていただきます」
ふぅ、あぶないところだった。
しかし問題は働き口だ。
夕暮れを反射する田んぼの中に、まるで島みたいに浮いて見える町は、以前と同じようにひどく小さくさびれて見えた。
あんないかにも過疎な小さな村に働き口なんてあるのかなぁ。 いや、前回はあったんだけど。

ぐぅぅぅ〜っ!

「ん? 誰だ?」
「私じゃないよ。 お腹は減ってるけど…」
「……」

…ぐきゅるるる〜っ!

「ゆのは姫?」
「…し、仕方ないんです! 以前に言った通り、この仮の身体を維持するのにはたくさんの栄養を取る必要があるんですから…」
ああ、そういえばゆのはがそんなことを言っていた気がするな。確かに人間になってからのゆのはは以前より食わなくなったし…いや、それでもよく食う事に変わりは無いが。
しかしなけなしの晩飯代はさっきの祠を直すのに使っちゃったしなぁ。
…やっぱり稼がないといかんのか。
「まぁ…なんとかなるだろう!」
「相変わらず楽天的ですね。どこをどう考えればそんな結論に達するのやら」
「前回も今回と全く同じ展開でなんとかなったからな! 今日の俺もきっと馬鹿ツキについているはず! つまりラッキーガイ!! 一曲歌いたい気分だぜ!!」
「…はぁぁ……やっぱり拓也は馬鹿です。 もう嫌です…頭痛いです…」
「私も頭痛がひどくなってきました…」
「はっはっは!! 二人とも気を落とすな!! ラッキーガイな俺に任せろ!!」
「だからその根拠の無い自身は何処から来るんですか!」
「このビンボー子羊!! 子ヤギ! 子カモシカ!」
「そういうゆのはも金ないだろう」
「そんなことはありません! これでも2000円くらいはいつも残るようにして…ハッ!?」
まぁ、ある意味予想通りだが。
「…浄財、しましょうか?」
無表情にただそれだけを言って、再び賽銭箱を取り出すゆのは姫。
「…あー、いや、いい。バイク運転してたのは俺だし、全部俺が稼ぐよ」
「そうですか? まぁそういうところが拓也らしいのですが…」
「それにいざとなったらその2000円で今日の飢えをしのぐ事もできるしな」
「……これは、私のお金…」
「そこでケチって拓也が飢えて死んだら元も子も無いでしょうに」
「…う〜……」
おお、ゆのはがすごく悔しそうだ。なんか珍しいものを久々に見た気分だな。

ぐきゅるるるる。

「…こんな話してたら余計にお腹が減ってきました…」
「うーん、こりゃ本格的にゆのは貯金を使う可能性も考えんといかんな…」
「あのぉ、何かお困りですかー?」
ふいに、俺達の上に降り注いでいた小雪が止んだ。
そして俺達の頭上に傘。
「…まさか」
声のした方に振り返ると…
俺達に傘をさしかけてくれたのは、何処か浮世離れした雰囲気のクセに、妙に生活観のある女の子だった。
ネギがポイントだな。 きっと地元の子なのだろう。
と言うか、この展開!状況!シチュエーション!(全部同じような意味だが)そして目の前に立つ独特の雰囲気を持つネギ少女! そうだ、間違いないこの子は…
「わごふっ!?」
その瞬間、俺の背中に強烈な衝撃が走った!

 


12/17(後編)へ続く


 


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